第43話 父帝暗殺

文字数 1,492文字

[パーレン伯爵]


みな、私と同じ意見です。

皇帝を 暗殺 致しましょう。



*ピョートル・アレクセーエヴィチ・パーレン。ロシアの伯爵(バルト人貴族)

[アレクサンドル]


えっ!

皇帝は、些細なあらを探し、廷臣を陥れています。

要塞は今、囚人でいっぱいです。


その上、フランスに近づこうなどと、外交も滅茶苦茶だ。このままでは、ロシアは滅びます。

しかし、私の父上なんだぞ?
ご存じないのですか?

皇帝は、あなたの妹君に婿**を迎え、その婿に、帝位を譲るとおっしゃっています。



*エカチェリーナ、アレクサンドルの11歳下の妹

**妻の甥、ヴュルテンベルク家のオイゲン公

えええーーーっ!
あなたが手を下す必要はありません。

ただ、黙認して下されば。

……………………。


1800年3月11日。

将校たちがパーヴェル1世の寝室に押し入り、皇帝を暗殺した。


(別室にて)


ああ、どうしよう。とうとう僕は、父親殺しの罪を担ってしまった。この先、この罪を、一生、背負って生きていかなくてはならない……。
さあ。

支配するのはあなただ。衛兵たちの前に姿を見せるのです。


1801年3月23日。

アレクサンドル1世、即位。



パーヴェル1世の滅茶苦茶な恐怖政治に疲れ果てていたロシアの人々は、若く美しいアレクサンドルの即位を歓迎した。



結局、これでよかったのかもしれない……。


そうだ!

父上が遠くへやってしまわれた友人たちを、呼び戻そう!



*チャルトルィスキ(41話「めちゃくちゃ」)、ストローガノフ、コチュベーイ、ノヴォシーフィツェフ

パリ……。
[フランス外務大臣・タレイラン*]


なに? パーヴェル1世が亡くなった?

いったい、どうしたというのだ?



ブログ「タレイラン」

[伝令]


ロシア皇帝パーヴェル1世におかれましては、卒中で亡くなられました由。

まったく……。


ロシア人は、皇帝の死を説明するのに、何か別の病気を考え出すことはできないものかね。






※『アレクサンドル一世』アンリ・トロワイヤ[工藤庸子 訳]




アレクサンドルの父、パーヴェル1世の死ですが……。



ロシア宮廷貴族の手による暗殺であることは、間違いありません。ですが、これには、イギリス機密情報機関の積極的支援があったという説を、最近、知りました。「今ではほとんど明らかになっている」と、カッコ書きまでしてありました。



理由は、ロシアの南下、特に、第二次対仏大同盟を脱退してから、ロシアが、イギリスとインド攻撃の為、2万2000のコサック兵を中央アジアに集めていたため、と、書いてありました。地中海の死守は、イギリスの悲願ですから。



実は、これ以前にも、パーヴェルは、フランスが撤退したのに、マルタ島からなかなか兵を引かないイギリスに対して、激しく憤っていたそうです。



『ナポレオン戦争』マイク・ラポート[楠田悠貴](2020.7 白水社) という本です。

びっくりです。

確かにパーヴェルは、マルタ騎士団の保護者ですから、フランスを追い出したイギリスが、マルタ島に居座ってしまったのは不愉快でしょう。その上、その奇矯な性格から、何をやらかすかわからないというか……。


また、マレンゴの勝利を知って、ナポレオンのファンになりつつあったという点も、イギリスには、危険視されたでしょう。

いずれにしろ、パーヴェル暗殺は、息子のアレクサンドルの黙認の元、行われたことに、間違いはありません。彼の煩悶と悲しみは、ここに描いた通りだと思います。



そして、この後、アレクサンドルが、父帝暗殺の実行犯たちを、そっと、地方勤務などの遠い地へ退けたことをことを考えると、彼も、イギリスの暗躍について、何かを察していたのかもしれません……。

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登場人物紹介

オーストリア皇帝フランツ


神聖ローマ帝国最後の皇帝でもある。

くそまじめで、四角四面な性格。

ロシア皇帝アレクサンドル1世


父パーヴェルの暗殺に関与または黙認し、即位した。

欧州の平和は自分が守る、と、固く心に誓う「騎士」。

フランス皇帝ナポレオン


あ、最後になっちゃった……。

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