第48話 地獄の仕掛け事件2

文字数 1,936文字

それで、犯人は?
[警察大臣フーシェ]


わかりません。

実行役の少女は、片腕だけを残して吹っ飛んでしまったものですから。ですが、彼女も、何も知らなかったものと思われます。



ブログ「ジョゼフ・フーシェ」

ジャコバン派だ! ジャコバン派の仕業に違いない!
と、申しますと? 
以前、オペラ座で俺を暗殺しようとしたとして、密告されて捕まったやつら*がいたろ? よし。あいつら、死刑だ!



*ナポレオンが共和国成立を妨げたことを恨み、昔、公安委員だった男の家で、陰謀が目論まれた。仲間内で密告があり、短剣も持たずにうろついていたところを、逮捕された。

ジャコバン……。

私はむしろ、王党派の仕業と思いますが。

いいや、ジャコバン派の仕業だ。早急に、監獄のやつらを死刑にしろ!

それから、至急、ジャコバン派の追放者リストを作成するように。

収監されていたのだから、アリバイはばっちりだったにもかかわらず、陰謀を企てただけの一味は、死刑に処された。

また、新たにジャコバン派130人を逮捕した。

その後の警察の調査で、犯人が判明した。


シュウアン派*の首領カドゥーダルが、主犯だった。同じく王党派の数名が、共謀者として判明した。


フーシェの言う通り、事件は王党派の犯行だったのである。


捕まった2名は処刑された。カドゥーダルは、イギリスに逃げた。



*ブルターニュ、ノルマンディー地方の王党派農民




2年後。


新たに第一執政(ナポレオン)を暗殺に来たカドゥーダルは、見とがめられ、警察官を殺して逃亡しようとしたが、居合わせた他の警官に逮捕された。


殺害された警察官には、妻子がいたため、世間の同情が集まった。

[カドゥーダル]


ふん。ならなんで、独身警官を配備しなかったのだね。

カドゥーダルの一味、46名もまた捕えられ、特別裁判にかけられた。この裁判は、2週間という、異例の早さだった。


判決は、主犯カドゥーダル及び20名が死刑(後に恩赦で8名に)、5名が禁固刑だった。
悔い改め、私、第一執政の政府に転向するなら、死刑は許してやってもよいぞ。
へん、誰が。

国王陛下、万歳! くたばれ、ブオナパルテ!!

王党派からの転向を断固として拒否し、カドゥーダルは処刑された。

[元警察大臣フーシェ]*


共謀者の中に、第一執政(あなた)もご存じの方がいます。



*ナポレオン政権には、恐怖政治の頃から、権力の中枢にいたフーシェに、不信の念を抱いている者が多かった。ナポレオンは、秘密を知り過ぎている彼に領土と爵位を与え、警察大臣の座から追い払っていた。さまざまな人脈に富む彼は、後に復職するが、ここはちょうど、職になかった時期。

ほう。

誰だね。

ピシュグリュ将軍と、モロー将軍です。



10話「ライン防衛」参照

 ブログ「モロー」

 ブログ「ジュベール将軍・モロー将軍」

なんだって!
ライン軍司令官だったピシュグリュは、当時から、敵国と密通していた疑いがあった。この証拠をあげ、彼を逮捕に導いたのは、ナポレオンである(1797.9 フリュクチドールのクーデター)。


今回の第一執政爆死計画には、流刑先のギアナを脱走しての加担だった。

いや、道を踏み誤ってしまったが、彼は立派な将軍だった。イタリアとライン、共に戦った同志でもある。

ピシュグリュ将軍は、死刑には問わない。再びギアナに流すに留める。


しかし彼は、獄中で、首にネクタイを巻き付けた姿で絶命しているのが発見された。





モロー将軍は、禁固刑を命じられました。



*モローは、禁固刑を言い渡された5名のうちの一人

禁固刑だあ!? そんなの、ハンカチ泥棒並みの扱い*じゃないか!


モローも追放だ!



*『反ナポレオン考』両角良彦

しかし、モロー将軍は、いわずとしれた、共和派の巨頭ですよ? あなたのエジプト遠征中の、ライン軍での活躍は、素晴らしいものでした。


今回の件にしても、革命戦争時代、オランダで、ピシュグリュ軍団長の下、右翼を守る師団長だった因縁によるものにすぎません。彼の役割は、些末なものです。モロー将軍は、引きずり込まれただけです。

いいや。

あいつには、悪意があるね。

[モロー(回想)]


ボナパルトのイタリアでの勝利は、児戯に等しい。


*『反ナポレオン考』両角良彦

宮殿に来いだあ? 俺も年をとったからなあ。膝が曲がらねえし、食事は少人数の方が気が楽でいい。
あ、うちの奥さんね。ボナパルト将軍のことが、大嫌いなのよ。で、「クラブ・モロー」なんての、作っちゃってね。いわば、同好の士の集まりってやつ?
キーーーーーーッ!


あいつだけは、許せない!


追放だ! 


追放だ追放だ!!!

当初、禁固刑だったモローは、ナポレオンの圧力により、国外に追放された。





「地獄の仕掛け事件」1・2の、文章でのご紹介は、こちらに。


ブログ「『地獄の仕掛け』事件1」

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登場人物紹介

オーストリア皇帝フランツ


神聖ローマ帝国最後の皇帝でもある。

くそまじめで、四角四面な性格。

ロシア皇帝アレクサンドル1世


父パーヴェルの暗殺に関与または黙認し、即位した。

欧州の平和は自分が守る、と、固く心に誓う「騎士」。

フランス皇帝ナポレオン


あ、最後になっちゃった……。

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