第15話 デュマ将軍

文字数 1,898文字


フランス革命軍として戦い、アルプスからイタリアへの道を切り拓いたのは、この男である。



アレックス・デュマ将軍。フランス植民地だったサン=ドマング出身。



アルプスの他にも、ベルギー、ピレネー(スペイン)、ライン方面、フランス軍が劣勢になると彼が派遣されている。いずれも彼は、その優れた身体能力と高潔な人柄で、素晴らしい戦果を挙げた。



まさしく、男がついていきたくなるような男である。



*10話「ライン防衛」初出

ブログ「デュマ将軍と革命期のヒーロー達1」





1794年、彼は、アルプスのモン・スニ峠、小ベルナール峠を確保し、イタリアへの道を拓いた。
そのころ私は、トゥーロン包囲戦のささやかな成功で、イタリア方面軍砲兵隊司令官に任命されていた。



4話「トゥーロン包囲戦」参照

あれは、ヴァンデミエールの反乱鎮圧*で名を挙げる4ヶ月ほど前のことだ。



7話「ヴァンデミエール将軍」

(ボナパルトイタリア方面砲兵部隊司令官)

(回想)


わが軍の装備は貧弱だ。大砲を何門かお借りしたい。

(デュマ将軍:アルプス方面司令官)

(回想)


モン・スニ峠への本格的攻撃を控えています。お貸しできません。

(回想)


くそーーーーーっ! あいつの方が、俺より身分が上なのだ。


かつてナポレオンは、ヴァンデ鎮圧軍の歩兵旅団の指揮官を打診され、断っている。



だが、デュマは、断らなかった。



彼は、ヴァンデ地方へ赴き、略奪品で贅沢な暮らしをしているフランス軍の規律を正した。短期間でヴァンデを離れたが、共和国の敵からも味方からも称えられる、稀有な将軍だった。




デュマ将軍の、イタリア方面への合流は、1796年11月のことだった。


すでに階級は、ナポレオンの方が上になっていた。




6話「テルミドールのクーデター」

なんてことだ!

イタリア方面軍は、地元の人から、略奪をしているぞ?

ボナパルト司令官はご存じないのか?

つか、俺も、美術品をたくさん、パリへ送ってるし。4頭の金色に輝く馬とか。


当時、フランス軍のマントヴァの勝利により、要塞には、オーストリア兵が立てこもっていた。デュマ将軍の仕事は、要塞の攻略だった。



マントヴァには、オーストリアの援軍が向かっていた。デュマの上官、セリュリエ将軍(下の画像)は、攻撃をためらった。



*ブログ「デュマ将軍と革命期のヒーローたち2 セリュリエ/ジュベール」

(進軍を決断できない上官に対する苛立ち)


私はこれから騎乗します。わたしが夜通し外にいる理由については明日、ご説明申し上げます。



※『ナポレオンに背いた黒い将軍』 トム・リース[高里ひろ]白水社


わずかな手勢を率いてデュマはオーストリアの援軍に向かって突っ込み、強行突破。そのままヴェローナまで駆け抜けて、味方の援軍と合流し、再び、取って返した。



サーベルで次々と敵兵をなぎ倒すデュマの戦いぶりは、すさまじかったという。


それなのに、ナポレオンの副官、ベルティエは、デュマを過小評価して報告した。


ナポレオンもまた、マントヴァ包囲戦に参加した全員の名を挙げて総裁政府へ報告したが、その中にデュマの名はなかった。



ブログ「ベルティエ元帥」

(デュマ以外に)


みんな、よく頑張ったね!

ご褒美に、私の名と献辞を入れた剣をあげよう。

私の目標は、名誉や金品の獲得ではない。


共和国の価値観、革命の精神を広げることだ!


(超然)

ふふん。

あの高潔さが、やつの弱点だな!


マントヴァの勝利を以て、イタリア方面軍は改編された。


だがデュマは、師団を与えられず、嫌いなマッセナ将軍の下につけられ、オーストリア軍との国境側へ派遣された。
にもかかわらず、彼の活躍は凄まじかった。


相変わらず先遣隊として、少しの手勢を率いて敵軍へ切り込み、次々と、敵をなぎ倒した。馬が倒れても、その馬を遮蔽として、攻撃を緩めなかった。



そんな彼を、オーストリア兵は、「der schwarze Teufel(黒い悪魔)」と呼んで恐れた。





実はこの時、デュマは、下の娘を、1歳3ヶ月で亡くしたばかりだった……。



デュマの活躍、高潔さを見込んで、ジュベール将軍下の画像)が自軍に引き入れた。


ジュベール将軍はデュマに数個の連隊を任せたが、相変わらずデュマは、小規模隊で突っ込み、サーベルで敵を切り殺していった。



*ブログ「デュマ将軍と革命期のヒーロー達 2 セリュリエ/ジュベール」

 ブログ「ジュベール将軍・モロー将軍」

今回は、さすがに、ナポレオンも、デュマの活躍を無視できなかった。



デュマはチロルの全騎兵部隊の指揮官に任命された。

ナポレオンは、彼を、「チロルのホラーティウス・コクレス」と讃えたという。


気に入らない男だ。

だが、やつは使える……。
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登場人物紹介

オーストリア皇帝フランツ


神聖ローマ帝国最後の皇帝でもある。

くそまじめで、四角四面な性格。

ロシア皇帝アレクサンドル1世


父パーヴェルの暗殺に関与または黙認し、即位した。

欧州の平和は自分が守る、と、固く心に誓う「騎士」。

フランス皇帝ナポレオン


あ、最後になっちゃった……。

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