第10話 ライン防衛

文字数 3,069文字


若きボナパルト将軍に導かれて、イタリアでは、フランス軍の快進撃が続いた。


しかし、ライン方面は、そうはいかなかった。


[クレベール将軍(北軍)]


司令官、デュッセルドルフのライン河橋頭保を確保しました!

[ジュールダン(北軍司令官)]


よくやった、クレベール! これで、モローの中央軍が、ストラスブールからケールへライン川を渡河する時間は充分稼いだな!*



*中央軍は、南のケール(ストラスブールの対岸)から、ライン河を渡河した

部下に、いい男が入ってきました。こいつのおかげで、百人力です!

[デュマ(クレベール部下)]*


さあ、参りましょう、クレベール将軍!



*ブログ「デュマ将軍と革命期のヒーロー達 1」~




ドイツ方面では、


ジュールダン(北部軍)と、

モロー(中央軍)


が連携を取り合い、カール大公のオーストリア軍を、大きく東へ押し戻していった。



フランス軍は、次第に、ドイツの深くまで入り込んでいった。



しかしこれは、オーストリア・カール大公の作戦だった。
[オーストリア カール大公]*



フランスの、2つの精鋭軍と戦うには、この兵の数では、こころもとない。

ドイツの奥で、ジュールダン軍モロー軍が、互いに孤立するのを待とう。



ブログ「カール大公1」

そして……。
[モロー*(中央軍)]


ラトゥール元帥が相手か。気を引き締めていこうぜ!



*ブログ「モロー」

南で、モロー軍に対していたのは、オーストリアのラトゥール将軍(上の画像)だった。ラトゥール軍に対し、若い将軍の多いフランス軍は、勝利を重ねた。


モロー軍が優勢になると、カール大公は、自ら南下した。



【ネスレハイムの戦い】(8月11日)


(フランス)ドゼ師団・グーヴィオン予備軍

         vs

(オーストリア)カール大公軍[ホッツェ元帥(下の画像)中心]


この戦いは引き分けに終わった。


しめたっ!

北のジュールダン軍が、モロー軍より、遥かに東へ突出したぞ!!


モロー軍が戦いに手間取っている間も、進軍を続けたからだ!

この機を逃さず、カール大公は、ドナウ河を南へ渡った。


カール大公軍が、ドナウ河を南へを渡っていくぞ? さては、フランス軍の強さに恐れをなしたな。よし、我が軍も渡河するぞ!
ジュールダン軍(北軍)とモロー軍(中央軍)は、連絡を取り合って進行していた。


だが、ジュールダン軍が東へ突出してしまった上に、間に河を挟まれてしまっては、連絡を取り合うことは困難になった。

[ジュールダン司令官(北部軍)]


ううう、モローの中央軍との連絡が遮断された!


こっちは、マインツを包囲するのに兵を残してきたので、兵力は少なくなっているんだ。

この機を逃さず、カール大公は2万8000の兵を連れ、ドナウ河を再渡河、北上した。


南には、ラトゥール軍が残り、モロー軍に対し、防衛に努めた。





カール大公は、北に残してあった味方と合流、ジュールダン軍へ戦いを挑んだ。



【アンベルクの戦い】
(1796.8.24)

カール大公は常にジュールダンを翻弄し続けた。

結果、オーストリア軍はほぼ無傷。対してフランス側は、3,000人もの兵士を失う大敗を喫した。

アンベルクでは、ネイ部隊の奮闘で、どうにか退路を確保できた。アンベルクの前に、オーストリア軍に敗れて孤立していたベルナドット師団とは、かろうじて合流できた。


だが、これ以上は無理だ。


あいかわらず、中央軍のモローとは連絡が取れないし……。


ここは諦め、撤退すべきだ。



ブログ「ベルナドット1」

[下士官]


パリの中央政府から、攻撃命令が出ました!

なんだと! 敵の位置もよくわかってないんだぞ!!

中央政府に命じられ、ジュールダンは、ヴュルツブルクの城砦に立て籠っているフランス軍に援軍すべく、霧の中、攻撃を仕掛けた。




【ヴュルツブルクの戦い】(同年9.3)

カール大公の巧みな攻撃に、ジュールダンは、残りの兵の、さらに1割を失った。


おお、マルソー

マインツ包囲を放棄してきたんだな! 無事合流できてよかった。



ブログ「フランソワ・セブラン・マルソー」


【リンブルクの戦い】(同年9.16~19)

カール大公が、側面から奇襲。ジュールダン軍は、壊滅状態に。


撤退だ!

モローのいる南ドイツへ向かうぞ!

撤退の際、マルソー軍は、アルテンキルヒェン付近で、オーストリアの主力軍(カール大公軍)に攻撃される。部下が勝手に退却を開始、マルソーは撃たれて重傷を負った。


カール大公は、彼に医者を遣わし、手当の甲斐なく亡くなった時は、涙したと、伝えられている。

ジュールダン北部軍はモロー(中央軍)のいる南部に向けて退却しようとした。



しかし、カール大公は、ライン川東側を確保した上で、北部軍をライン川西部の湿地帯まで追撃し、西岸まで追いはらった。



そこで素早く南へ転進し、中央軍の撃滅に向かった。

次は、モロー軍だ!



その頃……

[モロー司令官(中央軍)]


(北軍との一切の連絡が遮断されている)

カール大公がドナウを北へ渡ったのは知っている。だが、我々はどうしたらいい……?

(優柔不断)

[部下]


司令官。ドイツの新聞です。

おお。

……なにっ! ジュールダンが負けた!?

いなくなったと思ったら、カール大公、ジュールダンを叩いて来たんだ……。

次は俺らの番ってわけか……(ふるふるふる)


カルノー大臣の挟み撃ち作戦は失敗だ!

なら、文句はないよな?

我々も退却だ! 全軍、ライン河方面へ向かって、退却!!



*9話「イタリア遠征」参照


モロー軍は、オーストリアのラトゥール軍の、ゆっくりとした追撃を受けながら、退却を開始した。


逃がすものか!

カール大公は、レンヘン谷からキンツィヒ谷にかけて封鎖。これにより、フランス軍は、「黒い森(シュヴァルツヴァルト)」から出られなくなった。(下の地図参照)



フランス軍とオーストリア軍の間で、死闘が行われた。



【エメンディンゲンの戦い】

フランスのボーピュイ将軍が戦死。

[ドゼ将軍]*


軍を救え! 我々は、より良い時に、友人を弔うだろう……



*ブログ「ドゼー1」~

[モローに]私が左翼を務めます。カール大公の後部を脅かしてやる……(ぶつぶつ)。[部下に向かい]ついてこれるものだけついてこい!


[再びモローに]我々は、ブリザッハの橋を渡ります。あの橋は小さいですから、司令官は残りの部隊を率いて、南のユナングから、フランス国内へ入って下さい。

おお、ドゼ! やっぱりお前は頼りになるなあ。俺は、今年、ライン軍に来たばかりだからな。お前の承認がなければ、何をする勇気も出ないよ。

ケールブリザッハに分かれて中央軍もライン河を渡河、フランス領内に撤退した。




かくして、ライン地方に勝利が齎された。


弱冠24歳、最年少司令官、カール大公の手柄である。







フランスの、ボーピュイやドゼ(マルソーも)らの階級は、"général de division" です。これは、「師団長」つまり、師団(軍の作戦ごとの単位)の司令官というのが、本来の意味に思えます。


しかし、1793年に"général de division" になったドゼを例にとると、彼はこれ以上の階級の昇進はないのですが、日本では「将軍」と呼ばれているので、ここでは、"général de division" に、「将軍」の訳語をあてはめました。

オーストリアの「元帥」は、"Feldmarschall-Leutnant" です。


ホッツェは、この2年前のフランス・ライン軍との戦闘での功績が認められ、元帥に昇格したばかりです。

なお、地図は、グーグルマップと白地図を使っています。国境線等は、現在の物です。
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登場人物紹介

オーストリア皇帝フランツ


神聖ローマ帝国最後の皇帝でもある。

くそまじめで、四角四面な性格。

ロシア皇帝アレクサンドル1世


父パーヴェルの暗殺に関与または黙認し、即位した。

欧州の平和は自分が守る、と、固く心に誓う「騎士」。

フランス皇帝ナポレオン


あ、最後になっちゃった……。

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