第23話 諸国の思惑・カール大公の恋

文字数 1,769文字

[ロシア パーヴェル1世]


フランス軍が、マルタ島を征服しただと!?**

マルタ騎士団の庇護者たる、この俺様をさしおき、なんたる無礼!!

(激怒)



*エカチェリーナ2世の息子、アレクサンドル1世の父

***次章「マルタ島占拠」参照

その上フランスは、イタリアに進出、さらには、イオニア諸島まで独り占めしているではないか。

地中海は、ロシアのものだぞ!!



16話「タリアメントの戦い」参照

今は、トルコと争っている場合ではないな!
[トルコ大宰相 ユセフ]


フランス軍が、エジプトから、シリアへ進軍準備をしているぞ。フランスの司令官**は、エジプトの支配権を、マムルーク(奴隷出身の軍人。武力を持って、勝手に税を取り立てるなど、エジプトを支配していた)から宗主国である我々オスマン・トルコに取り戻す手伝いをするとか、言ってなかったか?



*次章「ヤッファ・アッコ攻囲戦」参照

**ナポレオンのこと

エジプトでは、イギリス海軍が、フランス軍の艦隊を焼いてくれた*し、シリアに進出してくれば、大砲などを送ってくれる手筈になっている。**



*次章「ナイルの戦い」参照

**イギリス、シドニー・スミス代将が、オスマン・トルコに協力した

ロシアは敵だが、イギリスが仲良くするなら、この際だ、ロシアとも手を結ぼう。

[神聖ローマ皇帝フランツ]


ええーっ! また、戦争!?

オーストリア軍は、また立ち直っていない。今、参戦したら、きっと、カールに怒られる……。

えっ、ロシアが? トルコとイギリスも?
もっ、もちろん、わが領邦、オーストリアも参加する!

1798年末、フランスを脅威と認めたオーストリア、ロシア、トルコ、イギリス他の諸国は、対仏大同盟を結んだ(第二次)。



翌99年3月、ラシュタット会議*は決裂し、フランスは、オーストリアに宣戦布告をした。



18話「ラシュタット会議」参照




カールは再び、戦場へ赴くことになった。


出発が間近に迫ったある日の夕方。

彼は、宮殿の中庭に佇む白い影を見つけた。



マリー・テレーズだ。

一人でいる彼女を、やっと見つけた。


[マリー・テレーズ]


……。


(近づいてくるカール大公(従兄)に気づき、身構える)
[カール大公]


(慌て気味に)

そんなに、怖がらないで。(フランス語。以下同)

……。

(少し微笑む)

貴女に、言わなければならないことがあります。


救出が遅れて、申し訳なかった。

貴女は、恨んでいるだろうか。

私たちの国が、貴女のご両親と弟さんに冷淡だった、と。



*ルイ16世とマリー・アントワネット夫妻は、ギロチンで処刑

 弟ルイ・シャルルは、虐待を受け、タンプル塔で死亡したと伝えられる(この時点ではまだ、生死不明)


父レオポルド2世の崩御を受け、カール大公の兄、フランツは即位した


弱冠24歳の新帝フランツは、まず、宮廷内の旧勢力を一掃する必要があった。


加えて、イギリス、ロシアなどの大国と、協調していかなければならない。


神聖ローマ帝国は崩壊しかけており、その権威は、何の訳にも立たないどころか、むしろ邪魔だった。


アントワネット(叔母)夫妻がギロチンにかけられたのは、即位直後のごたごたのさなかのことである。



1話「ピルニッツ宣言」参照


叔母上……ハプスブルク家の女性の処刑、しかもギロチンでの処刑は、我ら兄弟にとっても、耐え難いものだった。


貴女は、信じて下さらぬかもしれないが。

いいえ。

そんな風に思ってはおりません。

(フランス語。少しかすれ声



*4年に及ぶ、タンプル塔への幽閉の為マリー・テレーズは、発声障害を起こしていた

(かすれ声が痛ましい)


だが、憎んでおられる筈だ。貴女から家族を取り上げた者どもを!

最後に会った時、決して自分の復讐はしないようにと、父は言いました。


母の遺書にも、決して、復讐をしようなどと思ってはいけない、と書いてありました。

今からでは遅すぎると、貴女は思われるかもしれない。

だが……、

この私が誅してこよう。あなたの父上、母上、弟君を、むごい方法で殺したフランスの革命政府を!


(マリー・テレーズの手を握る)

(手を握られ、硬直する)


(だが、振りほどこうとしない)

だから、お願いだから、私が戦場から帰ってくるまで、待っていてくれないだろうか。


(一層強く、マリー・テレーズの手を握り締める)

…………。
必ず勝って帰る。

だから、

待っていて欲しい。

…………。
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登場人物紹介

オーストリア皇帝フランツ


神聖ローマ帝国最後の皇帝でもある。

くそまじめで、四角四面な性格。

ロシア皇帝アレクサンドル1世


父パーヴェルの暗殺に関与または黙認し、即位した。

欧州の平和は自分が守る、と、固く心に誓う「騎士」。

フランス皇帝ナポレオン


あ、最後になっちゃった……。

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