第7話 ヴァンデミエール将軍
文字数 1,711文字
テルミドールのクーデター*に、王党派は、ついに、自分たちの時代が来たと期待した。しかし、期待に反して、彼らが報いられることはなかった。王党派は、選挙妨害**があったとして、10月5日(革命歴の「ヴァンデミエール」の期間)、反乱を起こした。
ヴァンデミエールの乱という。
*5話「カルムの監獄」参照
**「1/3条項」への反対から。改選は1/3のみで、議員の2/3は、現国民公会議員ではなければならない、とするもの。これでは、王党派の割り込む余地があまりに少ない。
ポール・バラスが、制圧軍司令官に任命された。彼は、テルミドールのクーデターの立役者の一人である。
優秀な軍人は……そうだ! トゥーロンの砲兵隊長だった、あの男がいる!
バラスが思い出したのは、トゥーロン包囲戦を勝利に導いた、
ナポレオン・ボナパルトだった。
窮乏生活をし、下宿に籠っていたナポレオンを、バラスは副官に任じた。
[ナポレオン:蜂起鎮圧軍副官(@サン=ロック聖堂前)]
ぶっ放せぇー! もう一発!
それ、ぶっ放せぇー!
街中だって、構うものか!
食らえ!
葡萄弾(散弾)だぞ!
市街地で散弾を しかも大砲でぶっ放すなどとは、普通は考えない。ナポレオンの戦法は、王党派の意表を衝いた。
バラスの期待通り、ナポレオンは、王党派の蜂起を封じ込めた。彼は一躍、「ヴァンデミエール将軍」として、有名になった。
テルミドールのクーデターの翌年。
指導者ロベスピエールを失った国民公会は解散し、総裁政府が成立する。
総裁政府は、旧人会と五百人会の二院制を採用し、5人の総裁が、集団で、指導していた。
[ウジェーヌの母、ジョゼフィーヌ]
そんなこと言ったって、ウジェーヌ、剣や武器は全て、政府に供出することになったのよ。そうしないと、私はまた、捕まって、今度こそギロチン……。
お母さまは、生きて出て来たじゃないか! 処刑されたのはお父様だ! 高邁な思想を持つお父様は、意思を曲げず、ご自分の思想の犠牲になられた! 僕は、お父様がその手に持ち、戦われたこの剣を、決して、供出したりしないぞ!
……?
随分難しい言葉を知ってるわね。でも、ダメよ。お国の為なの。フランスは今、大変な時で、武器が不足しているの。
いやだ! 絶対、誰にも渡さない!
お母さまの話は、総裁のバラスの受け売りだろ? なんでお母さまは、バラスなんかの言うことを、あっさり聞こうとするのさ? 大事なのは、亡くなられたお父様だろ!?
それは私が、バラスの愛人をやっているから、良きフランス人だからよ。
お国の為よ。パパもきっと喜ぶわ。さあ、剣をお寄越し。
剣を集めにきていた役人が、見かねて、ウジェーヌに、「ヴァンデミエール将軍」に相談したらどうだと、アドヴァイスした。
ウジェーヌは、父の形見の剣を抱いて、家を飛び出した。
[ヴァンデミエール将軍ナポレオン]
そうか……父の形見……。(感動)
そんなにいとしい武器なら、供出の必要はない。君が、持っているがいい。
私は早くに父を亡くしていてな。君が、亡き父上を思う気持ちがよくわかる。
(感銘を受ける)
君は、父親思いのいい子だな。きっと、お母さんの躾が良かったに違いない。
さぞや素晴らしい女性なのだろうなあ。
是非、会ってみたいものだ。
以上が、「公式」の、ナポレオンとジョゼフィーヌの出会いのきっかけである。なお、後に、ジョゼフィーヌの二人の連れ子、ウジェーヌとオルタンスの回想録、及び、ナポレオン自身のセントヘレナでの日記に、同じ内容が記されているので、ある程度の信憑性はあるのかもしれない。
しかし、一方で……。
バラスの前でヌードショーを繰り広げるタリアン夫人テレーズ・カバリュスとジョゼフィーヌ、それを覗き込むナポレオン。
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