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文字数 1,113文字

「とっとと出てきゃあがれクソ坊ちゃん」

「絶対に出て行かねぇ」

「怒り狂ってるよ」

「お(かんむり)って状態か。たぬキノコ、何でも正直に言わなくていいんだぜ」

「ソロには正直でいたい」

「お前、やっぱりオレのこと好きだろ」

「本当に好きだったら投降を勧めるよ」

 思い通りの流れにならなくて悲しい。

「ソロはバンク少佐からBM菌を流し込まれているよね。それで現在地がわかってしまうんだよ」

「なっ、そ、それを早く言えっ。こ、殺される・・・・・・! 」

「捕まってもそれは無いと思うけど。でもキャピタルは罰として式場に一人で立たされるかもね。相手がアクリルスタンドだってわかってバンク少佐が怒り狂ってるから。あと、『一人は』っていうのは『他にもいる』ってことの裏返しだから、それが不誠実で火に油を注いでいるみたい」

「誰なんだ。バンクにキャピタルに彼女がいるなんて言ったのは」

「お前だ! 」

 キャピタルに割と強めに断言された。そういえばそうだった。

「ちょっと待て。元はと言えば、お前がオレに『彼女いるし』みたいなこと言ったのが発端(ほったん)だろうが」

「だって兄ちゃんには絶対知られたくなかったし。アクスタだっておれの女だし。仲間外れにしたら可哀想だろっ」


 ダメだ。身内に人生の敵がいて、キャピタルはちょっと壊れている。


「くそッ、お前のせいでオレはバンクにブっ殺されそうになってるのか・・・・・・! 」

「だから殺されないって。でも、捕まることを僕はオススメしないよ」

たぬキノコはソロの短ランの下から這い出ると、ぶるっと体を震わせて毛に空気を含ませた。

「暖かかったよ、ありがとう。ワイシャツ一枚じゃ寒いだろうから、着た方がいいよ。僕はもう大丈夫だから」

「ありがとよ、実は超寒かった」

 短ランはたぬキノコの体温で暖かくなっていた。

 ガラテアのような良い匂いではないが、たぬキノコのすえた獣臭(じゅうしゅう)もホッとする。

「軟弱者が。おれなんか半袖一枚でもなんともないぜ」


 コイツはしばらく無視だ。すべて失って一人で式場に立たされるがいい。


「キャピタルは大丈夫そうだね。ソロもしっかりボタンは留めた? 」

「留めたけど・・・・・・」

「・・・・・・there once was a ship that put to sea And the name of that ship was the Billy o’ Tea・・・・・・ 」

 どこからか、耳に張り付いて忘れられないメロディが、低くて重みのある声に乗って聞こえてきた。

 気の抜けたキャピタルのハミングよりもずっと重厚感があり、ファンドの不安に揺れる発音と比べると、こちらは歌詞の意味も理解しており、発音に絶対の自信を持っていることが(うかが)われる。
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