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文字数 2,057文字
「ソロ、起きろって」
キャピタルの野太 い声と、体をゆすられた振動でソロは目覚めた。
「お前、なんで廊下で寝てんだよ」
「ファ? 」
慌てて飛び起きると、確かに廊下である。
「なんでこんなとこでオレ」
「知らねーよ。全然戻って来ねーから何事かと思えば」
教室へ行く、と思ったところから、妙な夢に突入していた。若干 コンプレックスに思っている事案の夢だったので、寝覚めが悪い。
「まあいいや、とにかく行くぞ」
キャピタルの手を借りて立とうとしたが、立てない。足に力が入らない。
「体に力が入らねー」
「おいおい、大丈夫かぁ? 」
おまけに震えが止まらない。背筋 に悪寒 が走る。
「やばいやばい。まずいぞ、この感覚」
その気配を察知して、ソロは自分が寝ていたのではなく、気絶していたのだと悟った。
静かだった廊下にざわめきが立ち始める。おそらく、教室内のきのこたちも察知しだしたのだ。
「捕食者が来る。林田(仮)のとこに行かねーと」
「(仮)ってなんだ。急にどうした」
捕食者が発する殺気を感知すると、きのこ達は恐怖のあまり動けなくなってしまう習性がある。
きのこに害を及ぼすと現れる捕食者なのだが、だからと言って、きのこに対して友好的な存在ではない。
捕食者は天敵だ。だから種の存続をかけた戦争が勃発した。
「建物の中で籠城 してればいいんだ。あとは軍隊がやってくれる」
「ダメだ、林田(仮)は動けねーんだから」
「だから(仮)ってなんだぁ? いざとなったらテメーが林田の身代わりにでもなるってか」
「そうしよっかな」と口から出かけた。
このまま学校に通い続けても、永遠に集団生活には馴染めない気がする。癪 に障 るが、林田(仮)の隣に根を下ろすのだったらまあ良いかと思っている。
そのまま食われて、林田(仮)の隣に根を下ろして過ごしたい。
好きだったのに、顔も名前も思い出せない自分を、林田(仮)がどう思うかは知らないが。
キャピタルは人間だから、きのこに成り行く者の変化はわからないだろう。
言いあぐねているソロを見て、キャピタルは舌打ちした。
「意地悪して悪かったよ。林田(仮)のとこで籠城 しようぜ、あとは軍隊が追っ払ってくれんだろ」
「お前だって(仮)ってつけてんじゃねーか」
キャピタルの肩に担 がれて教室に向かう。イヤフォンは外れてしまうし、肩が腹に食い込んで若干気持ち悪い。しかし、贅沢 は言えない。
「悪いな」
「お前ダイエットしろよ、何キロだよ」
「55くらいかぁ? 」
「半分にしろ。お前身長160無いだろ」
「無茶言うな。テメーはいくつなんだよ」
「93キロ」
「身長は」
「174」
「多いんだか少ないんだかわかんねぇな」
「おれはめっちゃ鍛えてるから、これが適正体重なんだよ」
肩に担 がれている身なので、これ以上は口答えしないことにした。
「動けなくなっちまうのに、お前よく何回も無意味な収穫を企てるよな。これもお前が呼び寄せたのか」
「今日は違うけど、このスリルがたまんねーんだわ」
「人間も食われちまうんだから勘弁してくれや」
「にャピタルなら勝てんだろ」
鍛え上げた筋肉を周囲に見せびらかすため、明らかにサイズが小さいピチTを着ているから当たり前なのだが、服の上からでもわかる筋骨隆々とした体躯 は、腕っぷしの強さを周囲に知らしめている。
実際、
そんな彼の夢は、着ているピチTを筋肉で破けるようになること。
チビで力が弱いソロをからかったり、ケンカを売ってくる者は多々あるが、キャピタルにケンカを売ろうという輩 は今まで一人たりとも現れたことが無い。
「ムリだよ。ただで食われる気はねーけど」
廊下を移動していると、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「やべー、急ぐぞ。廊下で巻き込まれたらシャレにならねぇ」
キャピタルはソロを肩に担いだまま走り出した。
「やればできるじゃねぇか、ぱャピタル」
「だまれ。お前ホントに55kgそこそこかよ、めちゃくちゃ重いぞ」
「最近体重計乗ってねえからな」
「言っとくけど、おれベンチプレス120持てるんだからな。おれが重いっつってんだぞ、自己申告の体重がおかしいぜ」
「きのこ化が進んでるからかな。お喋りしてねーで早く走れよ」
「エラそうにしやがってこのアフォきのこが! ここから投げ捨てるぞ! 」
キャピタルが全力でダッシュして一年一組の教室にたどり着くと、林田(仮)以外誰もいなかった。
教師の指示に従って、皆、地下室や体育館へ避難したのだろう。
「おれらはここで籠城 するって、担任に連絡入れねーと」
ソロを教室に投げ捨てると、キャピタルは肩で息をしながら速やかに用事を済ませた。
ソロは受け身に失敗し、床にしこたま背中を打ち突けて悶絶 した。
「キャピタルも地下室に避難しろよ」
「ヤだよ。今更行って『入れてください』とかダサすぎ」
「つーか、お前なんで担任の連絡先とかすぐ出てくんの? 」
「一年三回もやってると自然と覚えるもんよ」
「あれっ? お前三回目なの? 」
キャピタルの
「お前、なんで廊下で寝てんだよ」
「ファ? 」
慌てて飛び起きると、確かに廊下である。
「なんでこんなとこでオレ」
「知らねーよ。全然戻って来ねーから何事かと思えば」
教室へ行く、と思ったところから、妙な夢に突入していた。
「まあいいや、とにかく行くぞ」
キャピタルの手を借りて立とうとしたが、立てない。足に力が入らない。
「体に力が入らねー」
「おいおい、大丈夫かぁ? 」
おまけに震えが止まらない。
「やばいやばい。まずいぞ、この感覚」
その気配を察知して、ソロは自分が寝ていたのではなく、気絶していたのだと悟った。
静かだった廊下にざわめきが立ち始める。おそらく、教室内のきのこたちも察知しだしたのだ。
「捕食者が来る。林田(仮)のとこに行かねーと」
「(仮)ってなんだ。急にどうした」
捕食者が発する殺気を感知すると、きのこ達は恐怖のあまり動けなくなってしまう習性がある。
きのこに害を及ぼすと現れる捕食者なのだが、だからと言って、きのこに対して友好的な存在ではない。
捕食者は天敵だ。だから種の存続をかけた戦争が勃発した。
「建物の中で
「ダメだ、林田(仮)は動けねーんだから」
「だから(仮)ってなんだぁ? いざとなったらテメーが林田の身代わりにでもなるってか」
「そうしよっかな」と口から出かけた。
このまま学校に通い続けても、永遠に集団生活には馴染めない気がする。
そのまま食われて、林田(仮)の隣に根を下ろして過ごしたい。
好きだったのに、顔も名前も思い出せない自分を、林田(仮)がどう思うかは知らないが。
キャピタルは人間だから、きのこに成り行く者の変化はわからないだろう。
言いあぐねているソロを見て、キャピタルは舌打ちした。
「意地悪して悪かったよ。林田(仮)のとこで
「お前だって(仮)ってつけてんじゃねーか」
キャピタルの肩に
「悪いな」
「お前ダイエットしろよ、何キロだよ」
「55くらいかぁ? 」
「半分にしろ。お前身長160無いだろ」
「無茶言うな。テメーはいくつなんだよ」
「93キロ」
「身長は」
「174」
「多いんだか少ないんだかわかんねぇな」
「おれはめっちゃ鍛えてるから、これが適正体重なんだよ」
肩に
「動けなくなっちまうのに、お前よく何回も無意味な収穫を企てるよな。これもお前が呼び寄せたのか」
「今日は違うけど、このスリルがたまんねーんだわ」
「人間も食われちまうんだから勘弁してくれや」
「にャピタルなら勝てんだろ」
鍛え上げた筋肉を周囲に見せびらかすため、明らかにサイズが小さいピチTを着ているから当たり前なのだが、服の上からでもわかる筋骨隆々とした
実際、
現代の人間特有
の凄まじい腕力を有しており、本人もそれを自負している。そんな彼の夢は、着ているピチTを筋肉で破けるようになること。
チビで力が弱いソロをからかったり、ケンカを売ってくる者は多々あるが、キャピタルにケンカを売ろうという
「ムリだよ。ただで食われる気はねーけど」
廊下を移動していると、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「やべー、急ぐぞ。廊下で巻き込まれたらシャレにならねぇ」
キャピタルはソロを肩に担いだまま走り出した。
「やればできるじゃねぇか、ぱャピタル」
「だまれ。お前ホントに55kgそこそこかよ、めちゃくちゃ重いぞ」
「最近体重計乗ってねえからな」
「言っとくけど、おれベンチプレス120持てるんだからな。おれが重いっつってんだぞ、自己申告の体重がおかしいぜ」
「きのこ化が進んでるからかな。お喋りしてねーで早く走れよ」
「エラそうにしやがってこのアフォきのこが! ここから投げ捨てるぞ! 」
キャピタルが全力でダッシュして一年一組の教室にたどり着くと、林田(仮)以外誰もいなかった。
教師の指示に従って、皆、地下室や体育館へ避難したのだろう。
「おれらはここで
ソロを教室に投げ捨てると、キャピタルは肩で息をしながら速やかに用事を済ませた。
ソロは受け身に失敗し、床にしこたま背中を打ち突けて
「キャピタルも地下室に避難しろよ」
「ヤだよ。今更行って『入れてください』とかダサすぎ」
「つーか、お前なんで担任の連絡先とかすぐ出てくんの? 」
「一年三回もやってると自然と覚えるもんよ」
「あれっ? お前三回目なの? 」