p87 ノウゼンカズラの丘

文字数 1,112文字

「一体、なんなんだ。この(つる)は・・・・・・」

 体中に巻き付いた(つる)を落として月明かりの下で周囲を見れば、いつのまにか花が咲いている。

 ノウゼンカズラの花だ。

 辺り一面、ノウゼンカズラの花と(つる)で満たされている。

「超トロピカルじゃん」

 体に絡まった(つる)を無造作に引き剥がしながら、キャピタルがやってきた。

 ソロは一瞬『無視しようかな』と思ったが、それも大人げない気がしたのでやめた。ここで無視したら逆に気まずくなる。

「キャピタル、無事かよ」

「さっきの全部聞いてた? 」

「・・・・・・いや、イヤフォンしてて何が起こってんのかわかんなかった」

 とりあえず、さっきのは無かったことにしてやった。
 ここで正気を失われても困る。

「お前のおかげで逃げ切れたぜ。すげえな、この(つる)お前から出てんだぜ」

「ファっ?! ど、どこからっ」

「どこって言われても・・・・・・どこだ」

「おめーもわかんねぇのか」

「月明かりがあっても、回りが(つる)だらけじゃな」

「たぬキノコは無事か」

「僕は大丈夫。でも、ちょっと助けて」

「全然大丈夫じゃないじゃん」

 たぬキノコに絡みついた(つる)を剥がして、三人は一息ついた。

 校長の雷に打たれたプロトタキシーテスはまだ成長を続けているのか、だんだん300メートルと同じ高さまで近づいている。

このまま行くと浮島に届きそうだ。

「ソロ。あれ、おれらが勝手に上陸しても大丈夫なのかな」

「知らね。でも、この感じだと朝には刺さりそうだな」

「なんか・・・・・・、寒いんだな、空って。風がすっげー強いし」

「お前ピチT一丁(いっちょう)だもんな。防御力低すぎだろソレ」

「おれには短ラン被せてくんねーのかよ」

「被せたところではみ出るだろ」

 短ランを着ているソロも寒い。
 かじかむ手を吐く息で温めていると、どこからともなくノウゼンカズラの(つる)が伸びて、ドーム状にソロたちを覆った。

 羽根状に小葉が密集した(つる)が幾重にも連なって、強風を防ぎ空間の温度を一定に保ってくれた。

「さっきから、なんなんだよこの蔓《つる》は。万能か」

 キャピタルの携帯電話のライトで、ドームの中がうっすらと明るくなる。

 薄明りの中で、ソロの後頭部をたぬキノコが不思議そうに眺めた。

「ホントになんだろうねぇ。でも、ソロの後頭部から伸びているからソロが出しているんだよねぇ」

「そんなとこから出てんの? これ」

「今、頭に花が咲いててトロピカルだよ」

「ヤだよ、そんなの」

 校長のように頭部が花で出来ているとか、ガラテアのように花を咲かせるとか、そういう仕上がりが理想である。あの絵面はカッコいい。

「キャピタル、オレの頭どんな感じか教えて」

「花が一本ぴよんて咲いてるぜ」

「マジかよ、ダサいから引っこ抜いてくれ」

「やだぁ」
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