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文字数 1,039文字

 白山羊はノウゼンカズラをモグモグしながら続けた。

「上の兄二人が最後に『母上』と、絞り出すような声で私を呼んだと、ブルーセルから聞いて・・・・・・」

 白山羊は暗い森を見据えた。

「私だってここへ来たかった。勝算さえあるのなら」

 ソロは思わず、白山羊の背に手を伸ばした。(いた)わるように触れた白山羊の背は、かすかに震えていた。

「正直、お坊ちゃんたちの命はどうでもいい」

「おいっ、この流れでそんな吐き捨てるように言うんじゃないっ。さっき花やったろがっ」

「不測の事態が起こったとしても、BM菌が守ってくれるだろう。あれは協力者を呼ぶ菌類だ。固まっていればついでに近くにいる者も守ってくれる。ブルーセルから離れたら身内もろとも食す」

「オレの家族は庭に生えてるじいちゃんとお袋だけだ。昨日地面に消えた。あと親父は消息不明だ」

「じゃあ生えてきたら食す。親父の方は発見したら食す」

「オレのじいちゃんは火を通すとうまいから、生で食すのはやめろ。テメーこそ、たぬキノコを危険に晒したら、ブルーセルの角で上履き干すからな」

 グダグダ文句を言いながら白山羊母さんと別れ、ソロたちはブルーセルの後に続いた。

「なー、ソロ。おれらって手斧しか武器持ってねえけど、ナラタケとやらと遭遇したらどうすんだ」

「とりあえず、焼く。ナラタケってくらいだからきのこなんだろ」

「味付けは」

「食う前提で話を進めんな」

「焼いたらお前も食えよ。言い出しっぺなんだから」

「食うのはダメだっつってんだろっ。とにかくブルーセルに火種もらおうぜ、燃やせるモン探すぞ」

「暗くてよく見えねぇよ」

「たき火作ろーぜ。力仕事頼む」

 ソロが手斧をキャピタルにパスすると、左手から良い香りが漂ってきた。
 ガラテアの匂いだ。

「もうそんな時間か」

 周囲を見回せば、灯り一つない鬱蒼(うっそう)とした森の中。

 キャピタルが倒木の枝に斧を立てる音と、ブルーセルの(ひづめ)の音しか聞こえない。

 暗闇の中で、ソロは急に不安を覚えた。
 ガラテアの香りが漂ってくるとはいえ、まだ西の方角は明るい時間帯のはず。
 この暗さが自然の物とは思えない。
 
 木の枝を拾おうと屈むと、黒いひも状のものが枯草の中に居た。

 ミミズくらいの太さだ。燃えそうな物をまとめるのにちょうど良いと思い、引っ張ろうと触ってみたが、地面に張り付いて剥がれない。

 黒い紐はあきらめ、木の枝を集めて一か所にまとめ、周りを石で囲む。

 枯草っぽい感触の草を、後頭部から生えているノウゼンカズラの(つる)で縛ってブルーセルのそばへ行った。
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