p65 アベイユ、バンビーナ、ザッヴァトーキョー

文字数 1,114文字

 今日からキャピタルの隣を陣取って授業中監視するつもりだったが、いきなり心折れるグループ分けが始まってしまった。

 公民の担当教師も人が悪いのか、普段仲良くつるんでいる生徒を見事にシャッフルしてバラした班編成をした。

 今朝の悪夢が蘇る。

 夢で言われた『迷惑だから、もう学校来ないで』と、一年で二回退学になった記憶が頭の中でリフレインする。

 起きている時なら『お前が来んな』と言い返せるのに、なぜ夢の中ではあんなに気が弱いのか・・・・・・。

 なぜ、こんなにコンプレックスを刺激する夢ばかり見るのか・・・・・・。

 机の下で、左手のブナシメジ(仮)の跡を埋めているガラテアの欠片に、祈るように右手を重ねた。

「よろしく・・・・・・お願いします」

 四人一組のグループで、手乗りサイズの小さいきのこがボソッと挨拶をした。

 それに続いて、他の面々も頭だけ下げたり、小さな声であいさつをした。

 ソロも頑張って頭を下げた。

 ケンカさえ売られなければ、ソロだって平和に過ごしたい。

 先陣を切って挨拶をした手乗りきのこは、自信が無さげな小さな声で

「僕・・・・・・、田中アベイユです。口残してます。発声できます。菌根菌(きんこんきん)で会話もできます。人間ときのこの通訳、できると思います。でも、人身売買が絡んだ誘拐事件に巻き込まれて以来、ずっと心療内科に通ってて・・・・・・病院以外で外に出たの、三年ぶりです・・・・・・。小さいけど、みんなより、年上・・・・・・だと、思う。力仕事も頑張ります・・・・・・」

 外に出るのが三年ぶりなのに、ちゃんと自己紹介ができる田中アベイユに、ソロはキュンときた。

 好きだ。細胞核交換したい。

「アタシ、高橋バンビーナ。ソフトボールやってました。二学期からこのクラスに編入したけど、学校に来るのは今日が初めて。前の学校は修学旅行で捕食者の襲撃に巻き込まれて一学年消滅した。アタシも心療内科通ってる。ゴミ拾いとか、灰掻(はいか)きとか、頑張る」

ぱっつん前髪のロング、好き。細胞核交換したい。

「ウチ、中村ザッパトーキョーです。関西から去年引っ越してきて、一学期からこのクラスにいるから、何ていうか、困っても困って無くても、なんでも言うてください。ウチからも声かけるし、声かけられるの嫌だったら、控えるけど・・・・・・」

関西弁、好き。細胞核交換したい。

「嫌なんて・・・・・・。中村さんから声かけてもらえたら、僕、嬉しい」

「アタシも」

「おおきに、よろしくね」

「よろしく」

 さっそく三人良い雰囲気になっている。

 そして後光が射している。

 だが、ここで出たら空気をぶち壊してしまう気がして、ソロは二の足を踏んだ。

 この、間を読むという行為が苦手でしょうがない。
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