p108 VS 貪食ナラタケ

文字数 1,058文字

 ブチブチという鈍い音とともに、地面から引きはがされた黒い繊維状のモノが、枯草や倒木の下から次々と姿を現す。

 倒木や巨大な切株の下敷きになっていた黒い繊維が、ブルーセルの怪力に引き上げられ、土ごと地面から引っこ抜かれて倒れた。

 黒い繊維は蜘蛛の巣のように地中に広がっていたのか、周囲の木々にまで浸食しており、まだ直立している木までこっちに向かって傾き出している。

「すげぇ」

 大山羊の大力に、ソロは圧倒された。

 ブルーセルは荒い呼吸で後退しながら、黒い繊維を更に引っ張る。

「ブルーセル、角が折れるぞ! 」

 ソロはブルーセルより前に出て黒い繊維を掴むと、思い切り引っ張った。
 が、まったくビクともしない。

 むしろ、元の位置に戻ろうとする黒い繊維に逆に引っ張られて、体を持って行かれて転んだ。

 束ねた針金のような質感のせいで、ソロの手の平から血が滲み出す。

 それにしても、ブルーセルに突き刺された部分から切れるなり裂けるなりしそうなものだが、まったく千切れる気配もない。とんでもない強度だ。

「呼べし」

 いつの間にか、箸をしっかり握りしめたキャピタルが、ソロの前に立って黒い繊維を取った。

 背筋がヤル気満々だ。

「頼むし」

 謎の黒い繊維との綱引きが、キャピタルにバトンタッチされた。

 キャピタルが黒い繊維を掴むと、再び大地から引きはがされた。

 黒い繊維はソロたちの足元にも広がっており、キャピタルに引っ張り上げられて姿を現していく。

「なんだコイツは。雑草の根っこみたいに地面に広がって」

 ソロがたき火の近くにあった手斧で、繊維に対して何度か垂直に刃を下ろして、やっと断ち切ることができた。

 切った断面をたき火の灯りに凝らして見ると、エナメルのような光沢を放つ皮が外側を覆い、内側にはよじれた繊維質の集合体が並んでいた。

 更に内側に硬い質感の繊維が整列しており、真ん中にできた空洞にはフワフワしたものがビッシリと詰まっていた。

「見てもわかんね」

 たいして気持ち悪くもなく、とりあえずソロの琴線には触れなかったので、切ったものは火にくべた。

 たき火から向き直ると、ソロは斧でブルーセルの角に刺さっていた黒い繊維を叩いて裂いた。

 ブルーセルは脱出すると、ソロにお礼の頭突きを食らわせてから、黒い繊維を(ひづめ)で叩き出した。

 ソロも周囲の黒い繊維を片っ端から叩っ切り始めた。

 弾力が強く一発では断ち切れないが、キャピタルの足元の黒い繊維たちを集中的に叩いた。

「ソロ! なんか手ごたえがある! 軸が安定しねぇから、おれを引っ張って支えろ! 」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み