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文字数 1,189文字

 きのこから切り離された人間部分は意識を保持しているとはいえ、本体から切り離されているため意思疎通を図ることができない。

 また、本体から切り離されているため、時間が経てば人間部分は傷んでくる。

 だが、近年、人間部分を他のきのこに挿し木のようにして保管していた組織犯罪グループが摘発され『挿し木すれば人間部分を保存できる』といことが広く知られるようになってしまった。

 
 菌類の培地や養分、臓器売買など、(さら)われた人間部分の利用目的は様々で、高値で取引されているらしい。

「ソロ、そういうのは警察がやってくれっから。タヌキを校長室に連れてってやれって」

 先ほどまでカメラを構えて罵倒合戦(ばとうがっせん)を繰り広げていたキャピタルの声のトーンが、少しだけ大人しくなっている。ソロの収穫跡のドアップを狙ったりもしない。

 代わりに、持参した弁当を広げて朝ごはんをキメていた。

「行くぜ、たぬキノコ」

 ソロはたぬキノコを抱き上げると、教室を後にした。

「教室で根を張ってるってことは、教室で持ってかれたってことだよな。人間部分を」

「そうなるね、普通に考えたら。体の一部が本体から離れて勝手に歩いて行くなんて、ありえないから」

「学校の誰かが林田を・・・・・・」

「それはわからないよ。それに、ホントにあのきのこは林田なの? 別の誰かかもしれないよ」

「教室のきのこのそばに林田のハンカチが落ちてたんだ。だったら、林田だろ、あのきのこ。人間の林田も病院にも施設にも戻ってないっていうし」

「意識が残って無いから、ハッキリ言って身元はわからないよ。林田は病院と施設で暮らしていたの? 家は? 」

「もともと親がきのこ化して施設で暮らしてたんだけど、体に寄生した菌類が合わなくて、長らく病院で入退院繰り返してたんだ。いなくなった時も病院から学校に通ってた」

「施設にも病院にも帰って来なかったんだね」

「そう、ずっと帰ってこない」

「林田(仮)はいつから根を張っているの? 」

「(仮)なんてつけるなよ。林田(仮)は去年から根を張ってる」

「ソロだってさっそく(仮)って、つけてるじゃないか」

「だって自信が無くなってきちゃったから・・・・・・」

「ちなみに去年て? ソロ、キミ何歳で何年生なの? 」

「オレ、14歳で中学一年生二回目突入なんだわ。留年しないと林田と離れちゃうから」

「人間部分の林田が戻ってくるまで留年し続けるの? あの教室に残るために」

「林田(仮)の奴、クラスのやつから落書きされたことがあって。なんかほっとけなくて」

「僕をここへ連れてきたのは、あのきのこが林田かどうか判定して欲しかったからなんだね」

「うん」

「ごめんね、やっぱり役に立てなくて」

「いいんだ。ついたぜ。校長、たぬキノコ預かってくれ」

 校長室の扉を開けると、なんとも言えない妙な香りが漂っていた。ハッキリ言って臭い。

その中で、頭が花で体が人型の生物が鎮座(ちんざ)していた。

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