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文字数 1,109文字

自分のケンカ腰の声で目覚めたソロは、慌てて起き上がった。

「なんだ夢か」
 
 昨夜の雷雨がウソのように晴れ、ソロの傷も痛みが失せている。
 とりあえず目覚めの『レズギンカ』をかける。

 何があろうと朝はこれだ。
 
 昨日は一日で三戦三敗したせいで疲れていたのか、それとも玄関で寝落ちしてしまったせいなのか、今度は更に寝覚めの悪い夢を見た。

 真っ暗な空間で、明らかに仲間外れにされている夢だった。

「もう眠りたくねぇな。嫌な夢ばっかり」

 かといって、起き続けていられるはずもなく。

「なんか滅茶苦茶(めちゃくちゃ)言われてたな・・・・・・。どんだけ嫌われてんだオレ」

 どうにもこうにも嫌な気分だ。
 だが、ふと、自分から良い匂いがすることに気が付いて、ソロは昨晩のガラテアを思い出した。

 外へ出ると、鉢植えの酔芙蓉(すいふよう)にランのガラテアが巻き付いていた。

 よく見ると、葉が無く、茎と花のみの不思議な形態をしていた。


 白い花は閉じており、香りもしない。花も茎も白く、不思議な植物である。

「ガラてゃが居てくれたらな・・・・・・」

 今朝の後味の悪い夢にまだ引きずられている。

 怖い夢を見たことを話したら、ガラテアなら『きのこには関係のないことだ』とバッサリ切り捨ててくれそうな気がする。

 指先でランのガラテアに触れた途端、ピリッとした刺激が走った。

「痛てっ」

 その瞬間、ランのガラテアは昨日無意味な収穫をしたブナシメジ(仮)の跡へ伸びて、ソロの左手の収穫跡を白く埋めてしまった。

 穴が空いていた部分はガラテアのような乳白色と化し、触ると皮膚と変わらない弾力が返ってきた。

「なんだこれ、面白れぇ」

 捕食者のガラテアがそばにいるような気がして、ソロは学校へ行く勇気が出た。
 ネイルがガビガビなのがアレだが。

 更に、昨晩のガワとの神々しいキスシーンがまざまざと記憶に蘇って、思わず自分の唇を触ってしまった。

「いいなー。オレもしてみたい・・・・・・」

 林田とたぬキノコというものがありながら、ガラテアに心揺さぶられている自分が不甲斐ないが、規格外にカッコイイのだからしょうがないだろう。

 捕食者という絶対に相容れない存在だというのもポイントが高い。

 林田とたぬキノコとガラテア、だれかを選ばなくてはならない時が来たらどうすればよいのだろう。

 三人が自分を取り合ったりしてしまったら、その場をどうやって納めればよいだろうか。

「オレを巡って『オレの友達以上恋人未満・林田VS浮島から地上に降り立った天使たぬキノコVS夜行性の白い捕食者ガラテア』のバトルが勃発したらどうしよう。仁義なき戦いが始まってしまう」

 昨日林田を間違って刺しておきながら、勝手に友達以上に格上げしている。
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