p114 何でも持っているキャピタル

文字数 926文字

「たぬキノコ一族じゃん。どうした」

「さっき落とした斧をみんなで探して、キャピタルに持って行ったんだよ」

 
 キャピタルはたぬキノコ一族に「右の(かいな)が強いんです!」と上空にいるソロにまで聞こえる大音量で自己アピールした。

 タヌキ達からしたら何のこっちゃである。

 手斧を受け取り、腕力を持って根状菌糸束を一撃で叩き切って行った。

 ソロが何度も振り下ろしてやっと切っていた根状菌糸束を一撃で。
 切るというより、力任せにブン殴っているといった方が近いが。

 キャピタルはブン殴ってズタズタにした根状菌糸束を束ねて作った鞭で、自分に迫ってくる火の手と追手を薙ぎ払った。

 やはり途方もない力だ。

 キャピタルと自分との力の差を、ソロは羨望の眼差しで見た。

 あれだけの力があれば、なんだって守れるだろう。

 家族も、大柄な体格も、腕力も、通りの良い声も、ソロが欲しいものを何でも持っているキャピタル。

 惚れっぽいソロがキャピタルにちっとも心が揺れないのは、嫉妬を抱えているから。

 友達だとは思っているが、一緒にいるとコンプレックスを刺激され過ぎる。

 割れた生爪に物が引っ掛かって、傷が広がるような痛み。

 その痛みが、目を逸らしたくなるような自分の弱さを(あらわ)わにする。

 キャピタルと自分が交換できたらいいのに、という情けなくて切実な願い。

 都合の良い時だけ頼りにして、嫌な部分が目につくと距離を置きたくなる(ずる)さ。

 家族に大切にされている部分を見るにつけ、自分の状況と比べて消えてしまいたくなる。

 ソロの見ている前で、キャピタルと合流したブルーセルは嬉しそうに角を振り回し、全身を使って喜びを表現していた。

 根状菌糸束は周囲に広がるのをやめて、本体を守るようにキャピタルとブルーセルの前に密集を始めた。だが、それ以上のスピードで破壊されていく。

 巨大な枝が振り下ろしと薙ぎ払いの攻撃を仕掛けてくるが、ブルーセルは角でいなして進路を変え、受け止めてへし折った。

 キャピタルは直接受けるのはさすがにまずいと思ったのか、器用に避けて難を逃れる。常人離れした反射神経だ。

 根状菌糸束に火の手が移り、エロ銀杏は徐々に炎に囲まれ出した。
 このままではキャピタルとブルーセルも炎に巻かれてしまう。
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