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文字数 1,194文字

 すると、鼓膜(こまく)()ぜるようなデカい声が響き渡った。

「おう! 」

 イヤフォンをすり抜けて届くデカい声にビビり、思わず身を低くした。
 
 ソロは両耳にイヤフォンを装着し、上から手で抑えながら音の出どころを直視した。

 リズミカルに『シューベルトの軍隊行進曲』が流れる中、机や椅子の影から、ソロが先ほど噛み付いた物体が姿を見せた。
 それは軍服を着た小柄な少年だった。

 多分、ソロの胸くらいの身長しかない。

「こども・・・・・・? 」

 思わず声を()らしたソロの耳に、爆音のような怒鳴(どな)り声が飛び込んできた。

「おうおうおう!!! クソ坊ちゃんなんとかかんとか△△△■■■◇!!! 」

 なんとかかんとかと実際に言っているわけではない。

 声がデカすぎてソロの耳が音を拾いきれないのだ。

 軍隊行進曲を突き抜けて襲い掛かって来る爆音から逃げるように耳を塞いでうずくまっていたら、襟首(えりくび)(つか)まれた感触がした。

 次の瞬間、今度は机よりも固いものにぶつかり、衝撃で首のあたりから『メ゛りっ』と鳴った気がした。

 苦い汁が胃液と一緒に持ち上がってきて、こらえきれず吐いた。

 視界がハッキリせず、隠れる場所は無いかと手探りで退路(たいろ)を探すが、大きくて机より硬い何かがソロの行く手を阻んで進めない。

 恐怖のあまりソロは行く手を阻む何かを、吐いた物で汚れた(こぶし)で殴りつけた。

 生暖(なまあたた)かいコンクリートみたいな(たた)き心地で、ソロは手を痛めた。

「何やってんだよソロ! 」

 なんの(かたまり)かと思ったら、キャピタルだった。

 生物とは思えない固さだ。
 
「パピタン、今度はマジで殺される」

「殺されない」

「しぬって」

「死なない」

 先ほどまでの落ち着き払った態度とは打って変わって、キャピタルは茫然(ぼうぜん)としていた。

 いかにも防御力の低いピチTに付着したソロの血とゲロにも気が付いていないようだ。

 教室内は(つる)の捕食者が荒らした後よりもひどいザマで、その周りを、いつの間にか軍の小隊が微動(びどう)だにせず囲んでいた。

 重苦しい沈黙の中、こちらへゆっくりと近づいてくる軍服を着た少年の足音だけが教室に響く。

「あの()っさいの、さっきの捕食者だよな」

「捕食者じゃねーよ。あの人は」

 キャピタルの発言が気に(さわ)ったのか、少年の目つきが一層、鋭さを増したように見えた。

 改めて顔をよく見れば、人間やきのことは思えない目つきの悪さ。

 絶対に人類の天敵の(たぐい)に違いない。

「『あの人』って、ずいぶんナンとかとかなんとかかんとか!! 」

 爆音はコイツの口から(はな)たれていた。

 なんとかかんとかと実際に言っているわけではない。

 デカすぎて言語として聞き取れないのだ。

 拡声器を頭に被せられているような凄まじい音。

 ひとしきり叫んで少年は少し気が済んだのか、やっと判別可能な言語を発した。

「それが自分の兄貴に向かって使う言葉かよ」

 キャピタルの兄貴? このちっこいのが? さっきのでかいのは?

「どうなってんの」
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