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文字数 628文字

「酔っ払いの乱入で引き分け」

「つまんね」

「校長先生の雷に誘われて集まってきちゃったんだって」

「虫か」

「バンク少佐は雷が直撃したみたいだけど、校長先生は脳天にちょっと風穴を開けられて、ぎっくり腰になっただけで無事みたい」

「ソレ『ちょっと』の範疇(はんちゅう)なの? 」

「すぐに担架(たんか)で運んでもらったって」

「無事じゃ無いじゃん」

「バンク少佐は、ソロも捕食者になりかけているんじゃないか、って、市ヶ谷駐屯地へ連れて行こうとしていたみたい」

「とにかく行かなくてよかったぜ」

「どうかな。そこで徹底的に調べてもらって、きれいさっぱり身の潔白を証明して大手を振って出てきた方が良かったかもよ」

「オレのことホントに好きだったら、たぬキノコはそうしろってオレを説得したんだよな」

「そうだね。僕にとって、それが大切な存在を守る最善の手段だから。身の潔白を証明できれば二度と目を付けられないだろうし」

 なんだか聞いて後悔した。

 ここまで脈が無いのはツライ。

 しかし、先ほど『捕まることはオススメしない』とも言っていたような気がするのだが。

「寒くなってきたし、そろそろ閉じるか」

 強風が直接顔に当たっているキャピタルも、体が冷えて苦悶(くもん)の表情を浮かべている。ノウゼンカズラの壁を閉じると、ドーム内に温かさが戻ってきた。

「換気してくれてありがとう。おやすみ、ソロ」

「おやすみ、たぬキノコ」

 左手のガラテアの欠片(かけら)に鼻を寄せると、良い香りがした。

 夢でいいから、あの彫刻のように美しい生物にまた会いたい。

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