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文字数 637文字

「送る」

 送ると言ったのに、男はソロに先立って歩き出した。
 タンクトップ姿になった男の広い背中が格好よく見えて、ソロはつい、素直について行ってしまった。学生服のおかげで傷口に雨が入らないし、温かい。

「何で送ってくれるんだ」

「その学ランを回収するから」

 ソロは男が自分と同じ20世紀の服装をしているところが気に入った。

 「オレんち遠いぜ」

 男の足の長さならもっと早く歩けるはずなのに、ソロに合わせてゆっくり進んでいる。この男と雷を聞きながら歩くのは楽しい、とソロは思った。

 具体的に、何がどう楽しいのかはわからないが、浮足立つような心持ちになっている。

「兄ちゃんの髪形は何で崩れないんだ? 」

「そういう種類だから」

「髪形込みでその形態なのか? 」

「そうだ」

「いいな、格好良くて」

「お前はその壊れた傘をどうするんだ? 」

 空に稲光が走った。

「もう使えないだろ」

 光に音が追い付く前に答えなくては。

「オレの傘だから。壊れたらオレが持って帰って捨てる」

 轟音が鳴る。鳴りやんでから再び男が口を開く。

「どこで捨てようが、行きつくところは同じだろ」

「だからって捨て置いていいわけじゃない」

「こんな夜中に、なぜ出歩いていた」

「図書館で調べもの。兄ちゃんは? 」

「俺は散歩だ」

「雷、気持ちいいもんな」

「いいや。俺は夜しか動けないから」

「なんで」

「そういう種類だから」

 コンビニの前に差し掛かった。人工的な明かりに男の姿が照らし出される。男は白髪で眉も白い。肌も色素が薄く人間離れした白さだ。
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