p140 キャピタルの鼻歌のタイトル

文字数 1,028文字

「この染み? 昨日しょうゆこぼした」

「クソが」

「なんだとコラア! 」

 悪態をついた途端、お(かんむり)に!

 きのこ同士の会話でも健在なクソデカ声で鼓膜が破れそうになり、意識が吹っ飛びそうになる。

「お前とリトル・マッスル、俺が動けるようになったら・・・・・・! わかってんだろーなっ!」

 もうリョウは助けてくれないし、役には立たないがキャピタルもいない。

 ガラテアも居なくなってしまったし、たぬキノコはもう千葉へ出向してしまったのか、さっきから影も形も見当たらない。

 こんな恐ろしいチビと一人で戦わなくてはならないなんて。

「・・・・・・と、言いたいところだが、首尾よくいったようだな」

「あんだって? 」

「タヌキから聞いている。色々省かれているようだが」

「そうかよ」

「タヌキのおかげで、俺も軍法会議で吊るし上げられなくて済んだ」

「弟が嫌がってんのに結婚させようとすっからだろ」

「それとは別件だ。一般市民にBM菌を供給したことだ」

「なんでダメなん。死にかけてたオレを助けようとしただけじゃん」

「あれは種族の為に命がけで戦うと誓った者にのみ許された菌類だ。一般市民に供給してもいい代物じゃない」

「なんで助けた」

「弟の初めての友達だから」

「思いっきり私情挟(しじょうはさ)んでんじゃねーか。責任取って降格しろ」

「軍人のみに与えられるBM菌だが・・・・・・、じつは俺以外にも情に流されて一般人に供給してしまう奴が後を絶たない」

「ダメじゃん」

「かくいう俺も、供給された側の人間だった」

 ソロはバンクの言葉を待ったが、それ以上は続かなかった。

 話は終わったと思って、ソロは目を(つむ)った。
 捕食者側の生物だとか、そうでないとか、今は不問にしてくれるようだ。

「・・・・・・there once was a ship that put to sea And the name of that ship was the Billy o’ Tea・・・・・・」

 キャピタルがいつもふんふん言っている歌だ。
 バンクの歌は許せる。単純に上手いから。

「その歌なんて言うんだ」

「Soon May the Wellerman Come 。シーシャンティと呼ばれる船乗りの労働歌だ」

 
「船乗りだったんか」


「一時期な。親父と船に乗って、徴兵逃れをした」


「ふーん」


 声の良さはガラテアといい勝負だ。

 サビまできちんと歌い上げてくれて、ソロは良いご褒美(ほうび)だと感じながら眠りについた。

もう、林田の見た光景は夢に出てきてくれなかった。

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