p19 シューベルトの軍隊行進曲
文字数 1,387文字
先ほど大量の
その代わり、大きな影が教室内に入り込んでいた。
ちょうど陽気なカルメンも終わった。
「次の曲なんだっけ」と気にしていると『シューベルトの軍隊行進曲』がリズミカルに流れてきてしまった。
もういいやとソロはあきらめた。
「おやおや、首が吹っ飛んじまったか・・・・・・」
吹っ飛んだ?
オレの首のこと?
まさか、キャピタルの?
「安心しな。捕食者の首だよ、クソ坊ちゃん」
林田(仮)が腐らせて床に開けた穴へと、
教室中にうごめいていた
チカチカと切れかけの蛍光灯のように点滅する視界に、顔が映り込む。
デカい図体といい声といい、
この大男もきのこならば、ちょっと細胞核を交換してみたい。
「捕食者の顔面ぶん殴るなんて、リミッター外れてんなァ。常識じゃ考えられねぇ」
なんだか小ばかにされている気がして、ソロはコイツもブン殴ってやろうと思った。
しかし、その前に確認しなければならないことがある。
「なあ、にャピタルは無事かよ」
「そんなグロい状態でもきのこ同士の
「グロい?」
「どんなザマか知らない方がいいぜ」
「あとで見たいから、ちょっと写真撮って。キャピタルがいつもカメラ持ってっからその辺、
「趣味が悪いな」
「撮ってくんねーなら失せろ。あ、ダメ、パャピタルが無事かどうかだけ教えて。オレ、さっき友達一人死んじまったんだからさ・・・・・・」
顔も名前も思い出せないけど、好きだったことだけは覚えている。
本当はもっと仲良くなりたかったのに。
友達のまま死んじゃった。
もう忘れないために、自分がどんな状態でも今日中に必ず林田の顔を調べに行こうとソロは思った。
そうしなきゃ、林田の遺影と葬式で初対面ということになってしまう。
「仲良かったんだぜ。オレがそう思ってただけかもしれないけど」
「キャピタルは無事だぜ。眠れよ、松本ソロ」
眠るわけにはいかない。
キャピタルの生存確認は済んだ。
あとはコイツを絶対に殴るだけだ。
「どこの誰だが知らねぇけど、オレのこと
「それがこれから助けてくれる奴に言う
大男はソロの前にかがむと、
ソロは自分で確認できないが、実はかなり酷い状態だ。
「俺らに巣くう菌類っていうのは分離・分解・分析ってもんが得意だ。俺はもちろん、きのこに成りかけのお前だってそうだ。相手の皮膚の状態を分析して、体内の菌類を応用すれば、こうやって再生医療にだって利用できる」
傷口に不愉快な感触が流れ込んできた瞬間、ソロは吐き気を
絶望的な不快感だ。
「異物が入ってくるわけだから、まあ、当然の反応だ」
焼けるような痛みまで伴い、背中から冷や汗が噴き出す。