p6 プロトタキシーテス
文字数 1,450文字
「プるぉトタキシーテスのことだな。ちょっと待ってろ」
ソロはたぬキノコとリュックを地面に下ろすと、履いていたスニーカーを脱いで裸足になった。
「たぬキノコ、しっかりつかまってろよ」
たぬキノコを片手で抱き上げ、ソロは桜に絡みつくノウゼンカズラの蔓を数本掴み、器用に上に登って行った。木の枝や幹の凹凸に足を引っかけ、視界が開けた場所まで来た。
「たぬキノコが見たのはアレだろ」
ソロはたぬキノコを抱き直すと、西の方角が見えるようにしてやった。
コンクリートのビルや住宅街に紛れて、円筒形の巨大なきのこの一群がくっきりと見える。
「そうそう、アレ。プるぉトタキシーテスっていうんだね」
「ぷるぉとタキスィーテス」
「ぷるぉとたきしゅーてす? 」
「らりるれろの『ろ』で、プロトタキシ―テス。悪いな、オレ滑舌悪いんだ」
「プロトタキシーテスっていうんだね」
「デボン紀の地層から発掘されたプるぉトタキシ―テスって円筒形の化石に似てるらしいんだけど、顕微鏡で覗くと組織の構造が全然違うんだ。でも、正式名称のカミナリダケじゃロマンが無ぇから、みんなで勝手にプるトタキスィ―とスって呼んでんだ」
「何を養分にしてあんなに大きく育ったんだろう」
「雷。だからカミナリダケって名前なんだ。シンプル過ぎて誰もそう呼ばないけど」
「ありがとう、教えてくれて」
たぬキノコを片手で抱き直すと、ソロは再び地面に降りた。
ノウゼンカズラに侵略された桜並木とムクゲの回廊を抜けて、ソロたちは旧江戸川沿いの道路に出た。
「僕、この大きな川を下ってここまできたんだ」
たぬキノコは首を伸ばすと、眩しそうに旧江戸川を見た。
「どっから来た? 金町浄水場? 」
「長い旅で忘れちゃった」
「人間を宿主にすれば簡単だったのに。タヌキなんか選んで」
「足さえ生えてれば何でもいいと思ったのさ」
そこまで言って、たぬキノコはソロの腕の中に顔を突っ込んで眠ってしまった。
「おやすみ、たぬきノコ」
旧江戸川沿いを歩いて東部図書館を曲がり、そのまま道沿いに進めば都営新宿線の瑞江駅に出る。駅に着けばにぎやかなもので、様々な生態系の生物が、地下鉄へ吸い込まれるようにして潜っていく。
駅の窓口でたぬキノコの事情を話すと、きのこ専用車両なら使用してよいことと、小きのこ料金を取られることとなった。
たぬキノコを抱っこして、お隣の一之江で降りるので、到着するなり人の波に乗って慌ただしく電車を後にした。
学校へ近づくにつれ、様々な形態の子供たちが増えていく。
種類も違い体格も差があり、みな思い思いの姿で登校している。
「みんなバラバラの格好だね」
「起きたんか」
「どうしてみんなで同じ場所に集まるの? 」
「集団生活の練習のため。五年前までネット授業が主流で、自宅で授業受けてたんだけど、富士山噴火と大地震のコンボで通信インフラの復旧が間に合わなくて急遽、この通学制度が復活したんだ」
そもそも捕食者が通信網の破壊を集中的に繰り返してきたため、戦時中から通信インフラは不安定な状態が続いていた。
それでも、富士山噴火と大地震の前までは教育を受けるには問題ない状態だったのだが。
「戦争も天災も、もう終わったのに復旧が間に合わないの? 」
「終わっても灰や胞子は急に止まないし、こいつが機械の隙間に入り込んでしょっちゅう故障するもんだから、超快適だった個人主義の生活が成り立たなくなってきたんだ。集団生活に戻る必要が出て来て、その練習のために、みんなで同じ場所に集まって授業受けたりしてるわけ」
ソロはたぬキノコとリュックを地面に下ろすと、履いていたスニーカーを脱いで裸足になった。
「たぬキノコ、しっかりつかまってろよ」
たぬキノコを片手で抱き上げ、ソロは桜に絡みつくノウゼンカズラの蔓を数本掴み、器用に上に登って行った。木の枝や幹の凹凸に足を引っかけ、視界が開けた場所まで来た。
「たぬキノコが見たのはアレだろ」
ソロはたぬキノコを抱き直すと、西の方角が見えるようにしてやった。
コンクリートのビルや住宅街に紛れて、円筒形の巨大なきのこの一群がくっきりと見える。
「そうそう、アレ。プるぉトタキシーテスっていうんだね」
「ぷるぉとタキスィーテス」
「ぷるぉとたきしゅーてす? 」
「らりるれろの『ろ』で、プロトタキシ―テス。悪いな、オレ滑舌悪いんだ」
「プロトタキシーテスっていうんだね」
「デボン紀の地層から発掘されたプるぉトタキシ―テスって円筒形の化石に似てるらしいんだけど、顕微鏡で覗くと組織の構造が全然違うんだ。でも、正式名称のカミナリダケじゃロマンが無ぇから、みんなで勝手にプるトタキスィ―とスって呼んでんだ」
「何を養分にしてあんなに大きく育ったんだろう」
「雷。だからカミナリダケって名前なんだ。シンプル過ぎて誰もそう呼ばないけど」
「ありがとう、教えてくれて」
たぬキノコを片手で抱き直すと、ソロは再び地面に降りた。
ノウゼンカズラに侵略された桜並木とムクゲの回廊を抜けて、ソロたちは旧江戸川沿いの道路に出た。
「僕、この大きな川を下ってここまできたんだ」
たぬキノコは首を伸ばすと、眩しそうに旧江戸川を見た。
「どっから来た? 金町浄水場? 」
「長い旅で忘れちゃった」
「人間を宿主にすれば簡単だったのに。タヌキなんか選んで」
「足さえ生えてれば何でもいいと思ったのさ」
そこまで言って、たぬキノコはソロの腕の中に顔を突っ込んで眠ってしまった。
「おやすみ、たぬきノコ」
旧江戸川沿いを歩いて東部図書館を曲がり、そのまま道沿いに進めば都営新宿線の瑞江駅に出る。駅に着けばにぎやかなもので、様々な生態系の生物が、地下鉄へ吸い込まれるようにして潜っていく。
駅の窓口でたぬキノコの事情を話すと、きのこ専用車両なら使用してよいことと、小きのこ料金を取られることとなった。
たぬキノコを抱っこして、お隣の一之江で降りるので、到着するなり人の波に乗って慌ただしく電車を後にした。
学校へ近づくにつれ、様々な形態の子供たちが増えていく。
種類も違い体格も差があり、みな思い思いの姿で登校している。
「みんなバラバラの格好だね」
「起きたんか」
「どうしてみんなで同じ場所に集まるの? 」
「集団生活の練習のため。五年前までネット授業が主流で、自宅で授業受けてたんだけど、富士山噴火と大地震のコンボで通信インフラの復旧が間に合わなくて急遽、この通学制度が復活したんだ」
そもそも捕食者が通信網の破壊を集中的に繰り返してきたため、戦時中から通信インフラは不安定な状態が続いていた。
それでも、富士山噴火と大地震の前までは教育を受けるには問題ない状態だったのだが。
「戦争も天災も、もう終わったのに復旧が間に合わないの? 」
「終わっても灰や胞子は急に止まないし、こいつが機械の隙間に入り込んでしょっちゅう故障するもんだから、超快適だった個人主義の生活が成り立たなくなってきたんだ。集団生活に戻る必要が出て来て、その練習のために、みんなで同じ場所に集まって授業受けたりしてるわけ」