p3 

文字数 578文字

 頭皮に残った髪、かつて目玉がはまっていた二つの黒い穴、くっきりと浮き出た肋骨が生々しい。人間の亡骸がサイズ的に目立つが、小動物の亡骸も存在感は負けていない。
 現在と違い、生物の体に寄生し始めた頃の菌類は致死性が高く繁殖力も旺盛だった。
 手始めに菌類は通りがかった生物を襲い、助けに来た仲間の命も奪い、その死体を養分にして繁殖した。
 当時の致死性の高い毒を今も含んおり、骨と皮になってもしっとりと潤っている。 
 菌類が胞子のために確実に生物(養分)を仕留めるために、乾燥して外側が破れたりしないよう油分や水分でコントロールしているからだ。 
 
 触れると猛毒の胞子を飛ばすその犠牲者は、『ガワ』と総称され現在も恐れられている。

 外側の『側』から取って『ガワ』と呼ばれるようになった。

 接触さえしなければ胞子は放出されないので、今も回収不可能なまま放置されている。

 その恐ろしいガワが蔓延(はびこ)る危険な親水緑道から、ポテッとしたシルエットが出てきた。

「タヌキだ」

 タヌキは先ほどのクロスボウの矢のニオイを丹念に嗅いでいる。

 数日前からこの辺りをタヌキがうろついていると回覧板にあった。さっそく会えるとは幸運だ。情報を得た時から、ずっと気になっていた。

「好きだ、タヌキ」

 挨拶がわりに告白すると、タヌキが振り向いた。
 何の不思議もない行動だが、そのシルエットは違った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み