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文字数 1,325文字

「なんで」

 まさか、別の捕食者の襲撃を受けているのだろうか。

「さっきの僕を好き云々を全部聞いてて、笑いすぎて死にそうになってるよ。呼吸困難で今まさに死にそうになってるよ。『だめなの? 』がツボにはまったらしくて、その部分を何回も自分で再現して笑い転げてるよ。仕事中なのにヒぃぁーッハッハって爆笑してるよ」

「そういうことは知ってても言うな! 恥ずいだろ! 」

「今後の為に知っておいた方が恥ずい思いしなくていいと思うんだけど」

「松本さん、私も同じ部屋にいるんだから今後は気をつけてくれ」

 たぬキノコに夢中ですっかり校長の存在を忘れていた。
 まあ、校長は害もないし空気みたいなものなので別にいい。

「柴田さんが全然来ないな。しょうがない、松本さんだけで話を進めるか」

 校長は椅子から立ち上げると、ソロとタヌきのこの前に地図を出した。

「詳しい経路は時期が近づいてみないとわからないが、松本さんと柴田さんとタヌキには富士山に登ってもらう」

「は? 」

「三か月後に登ってもらうから、それまでに体を鍛えて体調を整えておくように」

「なんでそうなる? 」

「タヌキだけでは危険だからだよ。こんな小さな体でどうやって浮島へ戻れる。人間か人型きのこがついて行くべきだ。タヌキの菌類が生まれた浮島が三か月後に富士山の八合目あたりを通過するらしいから、そこより高い所で待機して飛び降りろ」

 校長は従軍経験が長すぎたせいか、ちょっと世間というものがわかっていないフシがあり、自分以外の生物に対して軍人基準で指令を下すところがある。

 また、自分ができることは他の生物も可能だと思っている部分がある。
「まだ活動中の真冬の富士山に? そんな無茶は軍隊とか警察がやればいいじゃん。校長だってビーム」そこまで言ったところで校長が遮った。

「軍が交換条件を出してくれたのだよ。浮島へタヌキを送り届けてくれたら、林田さんの調査を柴田少佐が引き継いでくれるそうだ」

「でも、もう林田(仮)は・・・・・・」

「(仮)? 」

 林田(仮)はさっき死んだ。
 ソロの肩思いも終わった。
 ツル太郎に締め上げられて、真っ二つに折られて死んでしまった。

「そうだな、きのこの林田さんはもう死んでしまった。だけど、人間部分の林田さんはまだ見つかっていないだろう」

「見つかったとしても、もう融合(ゆうごう)する体は無いんだから、調査したって・・・・・・」

「松本さん、諦めるな。林田さんは自分の体に寄生した菌類が合わなくて入退院を繰り返していたんだ。自分の体に害を及ぼしていた菌類と分かれているということは、人間部分が独立して活動できるとも考えられるのでは」

「菌類と離れたことで、林田(仮)が元気に暮らせてるってこと? 」

「(仮)? まあいい。元気かどうかはわからないが、そういう可能性だってある。菌と体が合わない生物の分離の研究は今も活発に続いているし、成功例も多い」

「それじゃ、もしかして」

「人間部分の行方を調べるということは、必ずしも無駄ではないということだよ」

「本当の林田に、また会える? 」

 自分で言っておいてナンだが、本当の林田とは何なのだろうとソロは思った。

 好きだったのに、いや、今でも好きだ。
 でも、姿も名前も思い出せない。

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