p120 きのこの夢は林田の追体験

文字数 1,051文字

 目覚めると、真っ暗な空間で寝転んでいた。ソロは夢から覚めて合点がいった。

 今まで見ていた夢は、林田が見ていた光景。

 夜の図書館に一緒に行ったのは林田。

 林田越しに自分の顔を見ていたソロは、その表情のわかりやすさに呆れていた。

 「オレ、あんなにわかりやすい顔してたんか」

 たぬキノコにもガラテアにもファンドにも校長にも、あんなニヤついた締まりのない顔で接しているのだろうか。もし、そうだとしたら絶望する。

「林田」

 林田の中から、林田が見ていたものを、ずっと夢で見ていた。

「どうして」

 夢の正体と、林田が自分に向けていた好意に、ソロの感情と菌類がざわめく。

 林田がどんな表情で、どんな視線で自分を見ていたのか、全く思い出せない。

「どこにいるの、林田」

 林田の存在を求めて、ソロは周囲に視線を巡らせた。
 何やら自分の周りの暗闇がうごめいているように見える。

 まだ夢を見ているのかと、恐る恐る暗闇に手を伸ばすと弾性があり、引っ張っても切れない。一本一本が束ねた針金のように見えるが、質感が全く違う。

 針金よりも明らかに頑丈で弾力があり、エナメルのような光沢がある。

 貪食ナラタケの根状菌糸束のような質感だ。

 ここにいては危険な気がして、とりあえず体を起こした。

 すると、視線の先に扉のようなものが映った。

 すがるように駆け寄ると、大理石のような質感の扉だった。

 立て付けがちょっとズレているのか、隙間から光が漏れまくっている。
 
 その隙間から、スッキリとした清涼感のある、甘くて良い香りが漂ってくる。

 扉には『丁寧にノックしてください』と書かれた張り紙が貼られていた。

 こんなところに何故ドアがあるのだと思いつつ、ソロは礼儀正しくノックした。

「どうぞ」

 中から声がしたことにビビりつつ扉を開けると、大理石のように真っ白な空間だった。急いで扉を閉めて辺りを見回すと、小さくて白いものが地面からひっそりと咲いていた。

 花と茎だけの白い植物だ。

「花? 」

 白い花は小さく、頼りなげに花を開いている。

「そういえばオレ、たしか、キャピタルにサバ折りキメられて・・・・・・」

 ここはあの世かな?
 なんでこんなに明るいんだ?
 キャピタルとブルーセルは逃げられたかな。
 たぬキノコと白山羊も気になるし、校長とねーちゃんのことも気になる。
 これじゃ成仏できねーぜ。

「お前は気になることだらけだな」

「だれ」

 声の出どころを探すと、小さな花からだった。よく見れば、ランのガラテアだ。

「ガラてゃ? 」

「また会ったな」

「チューして」

 
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