p50

文字数 1,081文字

「兄ちゃん、音聴こえるか? 」

「聞こえる。響きがいい曲だ」

「同じ捕食者でも、ツル太郎とは全然違うんだな」

「ツルタロー? 」

「今朝、オレと友達に襲い掛かって来た捕食者だ。(つる)の植物の捕食者だから、ツル太郎。悪い軍人が仕留めたんだけど、首だけ逃がしちまったんだと」

「首・・・・・・。フッ」

「捕食者も笑うんだな」

「ダメか」

「どの辺がツボにはまった? 」

詮索(せんさく)するなよ」

「そうだ兄ちゃん、これ知ってるか? ん-んっんんんっんんーんっんっん、んんんーんんんっん、んんんっん」

 ソロは一旦音楽を止めて、必殺・キャピタルの鼻歌を放った。

 この中毒性、果たして捕食者にも通用するのか。

「なんだそれは・・・・・・」

「ふん、ふーん、んんんっん、んんんーんっんんんんんっんん。ふん、ふーん、んんんっん、んん、んんんんっんー、Huh!」

 このサビと合いの手から逃れられるものなどいない。

「・・・・・・んんんんんんーんんん・・・・・・」

 歩きながら何度か繰り返していたら、捕食者もついに口ずさみ出した!

「やった感染(うつ)った! 」

 楽器のような深みのある低音で口ずさむものだから、普段聞いているキャピタルのソレよりも重厚感があり、圧倒的に上質だ。

 風呂場の水垢のごとく脳内にこびりついたキャピタルバージョンを根こそぎ削り落として、捕食者バージョンに上書きしたい。

「天敵で遊ぶのはやめなさい。話の続きを」

「ツル太郎は人間のことも、オレみたいなきのこの成り損ないも、超見下してた。頭突きを食らわしたら赤い鼻血を出したから『人間と同じ色』って言ったら、超お(かんむり)になって、オレの首をねじ切ろうとしてきたんだぜ」

「それはお(かんむり)だろうな。俺たちは人間が大嫌いで、全生物の天敵であることを誇りに思っているから」

「やっぱり捕食者なんだな」

「戦うか? 」

「やられた時しかやり返せねぇよ。戦えない」

「じゃあそうしよう」

「なんでオレ、喋ったり動いたりできるんだ? 兄ちゃんは捕食者なのに」

「お前に向ける殺意がないから」

「兄ちゃんみたいな捕食者ばっかだったらいいのにな」

「そうなって欲しかったら、人類にはもっと増えてもらわないと」

「なんで? 」

「効率の良い養分だから。食料を育てるのもうまい」

 豪雨も雷もホッとする。

「食料が足りなくて、俺たちは困っている」

 この物騒な捕食者が隣を歩いているのが良い。

「増えろ。そのために俺たちは弱毒化(じゃくどくか)した」

 恩着せがましい言い方だ。人類が大人しく食料になると思っているのだろうか。

「曲を聞かせてほしい」

「おう」

 ソロがスイッチを入れると、『スパルタカス~バッカナール~』がノリノリで流れた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み