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文字数 1,039文字

 キャピタルに指摘されて初めて気が付いた。

 左手のブナシメジ(仮)を覆っていたガラテアの欠片が無い。
 今は収穫跡の集合体が大胆に露出している。

 リョウがいなくなり、ガラテアもいなくなってしまった。

「やっぱ日光に当てた方がいい気がしてさ」

「その方がイイぜ。持ち味、生かせよ。大っきらいだわ」

「うるせー。オレの方が大キライだ。帰れ、始発で帰れ」

「金ねぇし。走って帰るし」

「ねーちゃん叩き起こせ。駅で待機してもらって金払え」

「そーするわ」

 キャピタルが病室から出て行って、辺りは静かになった。

 包帯マンの息遣いが、わずかに聞こえる。

『キレイに言えなくたって、ちょっと違って聞こえたって、いいんだ』

 きのこの悪夢の底で聞いた、リョウの言葉がリフレインする。

 ソロは包帯マンが戦地に行ったきり帰って来ない自分の父親と重なって、何か声を掛けずにはいられなくなった。

「あのぉっ」

 口をしっかり開いて、腹から発声した。

「おつとめかんさいたします」

 緊張してしまい、うまく言えなかったが、これでいいと無理やり自己満足で完結して、えいやっと目をつぶった。

 たぬキノコの言うところの、自己愛で完結してしまった気がする。

「ふ、ふふ・・・・・・」

 頭の中に、笑い声が聞こえてきた。

 目を開くとソロはあたりを見廻した。誰かが自分に声を発している。

「包帯マン? 」

「そうだ、包帯マンだ」

 おかしくてたまらないというふうに、包帯マンの笑い声が響く。
 向こうも、きのこらしい。

「声出さなくても話せるんかい」

 急に恥ずかしくなって、ソロはぎゅっと目を閉じた。
 早く自分も発声なしできのこと会話できるようになりたい。

「あいつ、あんな気の利いたこと言えるようになっていたとは・・・・・・」

「?」

 はて、どこかで聞いたことのある声だ。
 たしか、とても恐ろしい存在の声だったような。
 脳内に『シューベルトの軍隊行進曲』が流れ出す。

「成長したのが図体だけじゃなくてホッとした」

「バンク?」

「あんな(ねぎら)いの言葉、なかなか掛けて貰えないぜ。俺は泣きそうだ」

 ソロの身に宿る全菌類が、一斉に怯え出した。ソロ自身もここから逃げなくてはとベッドから脱出しようと試みるが、体中に痛みが走って言うことを聞いてくれない。


 コイツは帰還兵などではなく、自分を無理やり市ヶ谷駐屯地に連れて行こうとして校長に雷を落とされた自業自得軍人である。

 だが、あんな姿でいかにも重症な姿を見てしまっては、さすがに心配になる。

「・・・・・・その血、大丈夫かよ」
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