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文字数 1,036文字

「出られない」

「二回言うなし。キャピタル。お前はここで待機だ」

「この状態で・・・・・・? 」

「痩せて出られるようになるまでの我慢だ」

 ソロは子供の頃に母に読んでもらった本に出てきた、太り過ぎて穴から出られなくなった熊の話を思い出していた。

 確か、穴から出るためにダイエットをさせられていた気がする。

「一週間くらいすれば痩せて出られるはずだから」

「置いてくな。全力を尽くせ」

「んー、頑張ってみる」

 ノウゼンカズラの(つる)が密集しすぎて、ソロの力では穴を広げられない。

 仕方なく、ソロは満腹の白山羊に無理を言ってケツ周りのノウゼンカズラを食べてもらって引っ張り出した。

「悪ぃな」

「手のかかるヤローだぜ」

 プロトタキシーテスの頂上はノウゼンカズラの花の丘となっていた。

 オレンジと緑のコントラストが眩しい。

 その中で山羊や鶏、小動物たちが縦横無尽に花を(むさぼ)っている。

「おいおい、ノウゼンカズラは毒があるんだぜ。大丈夫かよ」

「我々には菌類の加護がある。地上の植物が大量に来たから大喜びだ。ケンカしないでみんながたくさん食べられる機会はめったにない。だから、我が島へ立ち入ることを許可した」

「マジか」

「ようこそ我が島へ。お坊ちゃんたちの滞在時間はノウゼンカズラが尽きるまで」

 白山羊に後に続いて、ソロとキャピタルは人生初の浮島へ降り立った。
 
 地上のようにガワや植物で鬱蒼(うっそう)としているのかと思いきや、白山羊の浮島はサッパリとしたものだった。

 正式名称はわからないが、銀杏や杉、ススキやニセアカシアに似た植物や、糸杉の森のような一群が見える。ヨモギやノイバラのような雑草もあり、地上の森林公園とほぼ変わらない光景が広がっていた。

 山羊だけの浮島かと思いきや、昆虫はもちろん、人型のきのこや、ウサギ、小鳥などの小動物もいる。

「地上より手入れされてんのな。めっちゃサッパリしてんじゃん」

「我々はきれい好きだから。地上の業者と提携して、定期的に島のメンテナンスを依頼している。今日も地上から呼び寄せた業者に島の手入れをしてもらっている」

「すげぇ」

「ちょっと死体が転がっているけど、気にしないで大丈夫だから」

「何の死体? 」

「いろんな死体。そこに肋骨が見えるけど、いちいち気にしてもしょうがないから。ここへ訪れた生き物が気に食わないから私が食したとか、熊が食べちゃったとか、その程度のことだから」

 白山羊がさらっと怖いことを言ったような気がした。

 目をよく見ると、水平方向に広がる四角い瞳孔が怖い。
 
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