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文字数 716文字

「くそっ、かっこ悪いっ。なんで後頭部から一本だけ生えてんだよっ」

「腹減ったなぁ。なんか食うモン持ってない? 」

 キャピタルの腹が鳴る。こんな場所で緊張感のない男である。

「あるわけないだろっ。いつも腹が減り過ぎなんだよ。非常食とか持ち歩けよ」

「いつもポッケにアメリカンドッグ入れてる」
 
 先ほど口にしていた出どころのわからないアメリカンドッグは、非常食だったようだ。

 謎が解けてスッキリした。

「乾パンとか腹持ちが良いヤツ持ち歩けよ」

「ソロ。キャピタルこれ食べるかなぁ。さっきの余り物なんだけど」

 たぬキノコの風呂敷をほどくと、ラップに包まれた塊が三個転がった。


ドッグフードだ。


「ちょうど三つあるから、みんなで分けよう」

「ソロぉ、この花の蜜飲んでも平気ぃ? 」

「そいつは毒があるらしいからダメだ。オレの分もやるから、これで我慢しろ」

 ソロはドッグフードを包んだラップを二つ、キャピタルにパスした。

「悪いな。で、ナニコレ」

「さっき酔っ払いから貰ったツマミ」


 許せキャピタル。


「オレはもう寝る。おやすみ」

 ノウゼンカズラの壁を隔てて、外の強風の音が籠って聞こえる。

 その音に紛れて、味が薄ぅ~い、歯ごたえがあるぅ~という耳障りな感想が聞こえて来るが、無視した。

 だが、例の鼻歌が耳に襲い掛かって来た。

 ヘッドフォンで耳を守り、リストの『愛の夢』をかけた。

 校長は大丈夫だろうか、繋いだ手の感触が残っているとか早く会いたいとか、帰って来ないキャピタルをファンドが心配していないか、とか、心配事は多々あるが、今はとても眠たい。

 なにより、このノウゼンカズラの(つる)が、何があっても自分を守ってくれるような気がして、ソロは眠りの世界へ早々に旅立った。

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