p133 BM菌の弱点

文字数 1,072文字

 キャピタルはソロから離れるのを嫌がっていたが、たぬキノコ一族が用意した熱々のおでんが入った寸胴鍋にあっさり釣られた。

 キャピタルが立ち上がった拍子に、ソロは地面に転がった。

「あだだだだだ! 」

 太ももから転げ落ちるソロを無視して、キャピタルはおでんに釣られてまんまと移動させられた。

 ずっと握りしめていた箸が今、役に立っている。

 出汁のいい匂いが漂ってくる。

「キャピタル、オレも一口ほしい」

 独り占めするかな、と思ったが、意外にも、キャピタルは出汁をお玉にすくって持って来てくれた。

 慎重にソロの口にお玉を当てて、出汁を飲ませてくれた。

「悪いな」

「もういいのか」

「もういい。ありがとよ」

 キャピタルは満足そうにソロの顔を見て、再びおでんに向かって歩き出した。

 白山羊はキャピタルの鼻水まみれのソロの顔を額で拭ってやり、おくるみにこすりつけた。

 汚いモノを拭き終えると、白山羊はソロの耳元まで顔を寄せ、小さな声でつぶやいた。

「まちゅもとも細切れに分解されて、『きのこの悪夢』へ飲み込まれて大変だったろう」

「きのこのあくむ? 」

「菌類達の特別な場所だ。不要な物・・・・・・餌の自我。それが灰と塵の先まで分解されて、悪夢の底に沈むのだ」

「アレ、そんな名前があんのか。あの空間・・・・・・」

「噂だと、他所の世界への介入が可能らしい」

「どういうこと?」

「さあな。菌類の世界は未知だ。ただ、役に立つことがあるかもしれないから、頭の片隅へ置いておくとイイ。灰と塵の先へ進んだ者の特権だ」

「オレ、なんで戻ってこれた? 」

「BM菌の加護よ。あれは宿主の協力者を呼び寄せる。分解された者の再構築に必要なものを引き寄せるなんて朝飯前だろう」

「無敵じゃん」

「協力者が間に合えばな」

「間に合わないことなんてあんの? 」

「BM菌の欠点がソレだ。タイムラグが生じることは常に頭に入れておけ」

「やけに親切じゃん」

「礼だ。私たちは帰る。上の息子たちも一緒に。プロトタキシーテスの頂上へ置いてきた民も回収せねばならん。まだ遊んでいたいとゴネている者もいるが」

「待て、オレらも連れてけ。地上への帰り方がわかんねぇ」

「まちゅもととパピタンは、たぬキノコ一族が地上に送り届けてくれる」

「そいつは一安心だぜ。それで、ここのお偉いさんとの交渉は上手くいったんか」

「それはもう。たぬきのこの浮島から安定的に食料を輸入できるようになったし、こちらが有利な立場で条約も結んだ。そして、強力な後ろ盾とも同盟を結べた」

「ガラてゃのことか」

 夢うつつに、ガラテアが白山羊の女王にヨロシクと言っていた。
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