p138 帰還兵

文字数 1,195文字

 軍人たちに誘導されて、医務室で簡単な検査を受ける。

「きのこは入院。人間は健康、帰って良し」

 きのこの軍医に診断を受けて、ソロは入院病棟へ運ばれた。なぜか帰宅許可の出たキャピタルも付いて来る。

「お前帰れよ」

「なんで」

「ねーちゃん心配してるぞ」

「黙って運ばれとけ。どこの部屋にいるかわかんないと、お見舞い来れないだろ。お前、意地悪だから、おれに絶対連絡よこさないだろ」

 軍人たちに担架からベッドに移動されて、ソロは一息ついた。
 背中に枕を当てて上半身を起こした状態にしてもらって楽になった。

 早朝の秋の病室はまだ暗く、廊下の灯りが部屋に差し込む程度だ。

 ここへ連行されるのが嫌でバンクから逃げたのに、結局来ることになってしまった。

「B病棟の、1118号室。六人部屋か」

「帰れ来んな覚えんな記憶から消せ」

「静かにしろ。もう一人いる」

 カーテンからそっと覗くと、包帯で覆われた、いや、布で覆われているといった方が近い塊が見えた。布には茶色く変色した血のようなものが滲んでおり、かなりの重症患者に見える。

「なんだあの包帯マンは」

「帰還兵だぜ、ソロ」

 終戦してから何年も経つが、かつての戦地から救出されて帰還を果たす軍人は多い。また、言葉が通じる捕食者との小競り合いは建前上、終わったことにはなっているが、意思疎通が図れない・図る気が無い捕食者・危険な新種の生物はごまんと存在する。
 

 どちらが正しいとか正しくないとかは二の次で、種族の存亡をかけて捕食者・新生物の討伐に赴くのも軍人の務め。


 キャピタルは包帯マンのもとへ静かに歩いて行き、相手が見えているかどうかもわからないのに、丁寧に頭を下げた。

「お務め感謝いたします」

 包帯マンにキャピタルの声が届いたのか定かではないが、それだけ言うとソロのもとへ戻ってきた。

「おれ、いっかい帰るわ」

 ソロは開いた口が塞がらなかった。
 
 やっぱり、キャピタルはちゃんとしているのである。

 今は半裸でワキ毛もボーボーだが。

「オレ、やっぱり、お前のことキライだわ」

 思わずこぼれたソロの本音に、キャピタルはフンと鼻を鳴らして、勝ち誇ったような顔をした。

「やっと言ったな。きらいなのは自分だけだと思うなよ。おれだってお前のこときらいだし」

 半裸のくせに、わかったような口をききやがるキャピタルに、ソロはムッとした。

「キャピタルのこと、前からキライだし」
「おれなんか、それよりもっと前からソロきらいだし」
「オレなんかキャピタルに会う前からキライだし」
「おれは生まれる前からソロのこときらいだし」

 キャピタルの相手をしながら、ソロも包帯マンに声を掛けようか悩んだが、滑舌が悪いしウィスパーボイスで通りは悪いし、二回も同じことを言われたら向こうが迷惑じゃなかろうか、などと変に気にして機を逃してしまった。

「オレの方がキャピタルのことキライだし」
「お前、左のパンツどこやった」
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