p74 挙式

文字数 1,040文字

「ゲロビンタって言ったのはソロだ」

「キャピタルてめー! 彼女いるくせにオレを売るんじゃねぇよ! 」

「うるせー! おれに女が居ようが居まいがゲロビンタっつったのはオメーだろうが! 」

『ええっリトル・マッスル彼女できたの? 彼女できたのぉ? 彼女できたってことぉ? なんで紹介してくんないの? 名前は? 種類は? どこ住んでるの? いつから付き合い始めた? 同じ学校? どこで出会った? どうやってそこまでこぎ着けた? 相手から告白された? 自分から行った? どんなとこが好き? なんで言ってくれないの、今すぐ会わせてよぉ! 』

 バンクも知らなかったようだ。

 かなり食い気味にソロも聞きたいことを、まくし立てている。


「う、うるせーな。弟のプライバシーに踏み込んでくんじゃねーよ。そういうのセクハラなんだからなっ、公民の先生が言ってたぞ」

『早く挙式の準備を』

 電話から聞こえてくるバカでかい声に、ソロは我が耳を疑った。そんな無茶な。

「おれの食費がかさむからって、他所んちに嫁がせようとすんじゃねー」

『安心しろリトル・マッスル。兄ちゃんに任せておけ、今カタログ取り寄せてるから。招待状のリスト作って衣装の試着して式場の下見して比較して試食して、やることいっぱいだなぁ、なにから決めよう。親父が生きている内にリトル・マッスルの晴れ姿を』

「そんなの兄ちゃんが見せてやればいいだろ! おれの人生を奪うなっ」

「なんか・・・・・・、バンク少佐ってちょっと僕のイメージと違ったかも」

 話が成り立たない柴田兄弟を見て、たぬキノコがつぶやいた。

 キャピタルの言葉はわからないが、雰囲気は何となくわかるし、バンクの言葉は理解できる。

「おっ、やっと気が付いたか。デタラメな奴だろぉ? 」

「挙式は気が早いよ」

「そこ? 」

「ソロ、お腹空かない? 校長先生が持たせてくれたお弁当いっしょに食べようよ」

「もらうわ」

 酔っ払いのブルーシートの隅を借りて、たぬキノコの風呂敷からリンゴとサツマイモとドッグフードを広げた。

 すると、もはや酩酊状態で何もかもわからなくなっている酔っ払いたちから柿ピーが回ってきた。

「ピリッと辛くておいしいね。ピーナッツはあげる」

「ここなら人も多いし明るいし、校長が来るまで安全に過ごせるな。ここで待たせてもらおうぜ」

 柿ピーのピーとサツマイモを食ってるうちに、失恋したことやキャピタルに彼女がいることがどうでも良くなってきた。

 口から養分を得るということは、結構大事なことなのかもしれない。
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