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文字数 1,136文字

「僕が地上で採取した種子や菌類を、浮島へ届けるんだ」

「・・・・・・うん? 」

「浮島、知ってるよね? 」

「そりゃ、まあ」

 航空機や衛星の通信インフラを阻害し、日あたりを悪くし、時に山々にぶつかり噴火を誘発する地上の生物にとって迷惑でしかない、謎の浮遊力を持つ菌類の集合体、浮島。

 各国の調査で浮島独自の生態系が確認されているほか、高度な文明を持った生物も存在することが判明している。

 人類よりも進んだ科学技術力に加え、菌類についても浮島の方が解明が進んでおり、応用技術も発達している。

 軍のBM菌も、浮島の協力があったから開発に成功したと言われている。

 近年、各国はこぞって浮島の知的生命体と様々な条約を結び、関係強化のため浮島の要求を無条件で飲むという方針を取っている。

 浮島からの要求は、国家レベルの難易度から、小さな子供でも引き受けることができるお使い程度のものまで様々である。
 
 要は、甘い汁を吸うために、人類は浮島からお願いされたことは断れない状態なのである。
 
 人々はこれを「浮島クエスト」と呼んでいる。

「僕は浮島の菌類が意思を持ってタヌキに寄生して生まれたんだ。ここまで育つのにどのくらいかかったかは忘れてしまったけど、自分の使命だけはちゃんと覚えてるんだよ」

「えぇ・・・・・・な、なんかカッコイイぃ・・・・・・」

 ただカワイイだけだと思っていたのに、このような使命感を持った立派なたぬキノコの主人公感に、ソロは再び胸が高鳴った。

「僕、タヌキだよ、好きなっちゃだめ」

「だめなの? 」

「僕らは同じきのこだけど、キミまだ人間部分が多いんだから。キミの想いには応えられないよ」

「お前って、ちょっとお高くとまってるよな」

「そういうの良くないよっ。勝手に恋して無責任に好きになってイイのは架空の存在だけだよ。ソロはそういう相手を見つけなよ」

「なんで架空の存在限定なんだよ」
「ごめんちょっと見くびった」

「イヤなたぬキノコだぜ。まだ出会ってないだけで、オレを好きになってくれるやつだって、この世のどこかに実在するはずなんだ。多分。・・・・・・おそらく」

「もっと自信を持って。きっといるはずさ、そんな相手が」

「それで、なんかスケールがデカい話だけど、バンクがお前の代わりに浮島に菌だの種子だのを届けてくれるんかい」

「ううん」

「断られたんか」

「うん。バンク少佐が適任だったんだけど、タイミングが悪かったんだ。ちょうど小さくなっちゃったし」

「ホントはビビッて断ったんじゃねーの? 」

「ソロ、僕との会話は全部バンク少佐に筒抜けだよ。さっき菌根菌(きんこんきん)をちょっとだけ交換したんだ」

「はやくいえよ! こ、ころされる・・・・・・! 」

「それは心配ないよ、向こうの方が先に死にそうになってるから」
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