p126 ソロ、ギリギリ許される

文字数 635文字

「だが、忘れねぇからな」

 許されたと思いきや、からの、トドメの一言が心臓を貫き、ソロは戦慄した。

 生きた心地がしない。

 こんなに恐ろしいきのこだったろうか。林田は。

「そうだ松本。お前、『リョウ』って言えるか」

「え、いや、あの・・・・・・」

「言ってみ」

「ろ、ろょう・・・・・・」

 滑舌が悪くて『リョウ』と上手に発声できないのが恥ずかしかったから、今まで『林田』で通してきた。

「顔を見せて、大きな声で」

 恐る恐るリョウに顔を向けた。
 もう怒ってはいなさそうだが、切羽詰っているような、何かを訴えかけてくるような焦りが伝わってくる。

「キレイに言えなくたって、ちょっと違って聞こえたって、いいんだ」

「ろぉう」

「それでいい。怖がるな」

 怖かったのはさっきのリョウだ。
 無言でガラテアを引っこ抜こうとしたのも怖かった。

「勇気をだして、大きな声で、もう一度」

 上手く言えないせいで、周囲からリョウまでからかわれるのが嫌で、呼べなかった。

 本当は、いつだって呼びたかったのに。

「リョウ」

 怖がらずに、目を背けることなくソロはリョウを呼んだ。
 ガラテアに言われたとおり、しっかり口を開いて。

「リョウ」

 緑眼の同心円が揺らいだ。いつもあんなに泣いていたのに、まだ涙が枯れないのか。

「こんなに暗いのに、どうして松本は日向の香りがするんだろうな」

 リョウにも名前で呼んでほしい。

 ソロが口を開きかけたところで、額にリョウの唇が触れた。ひび割れてかさついた感触が、額に刺さった。

「おやすみ、ソロ」





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