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文字数 1,113文字

「テメーの相手は俺だぜ」

 ソロとブルーセルの間に、キャピタルが割り込んできた。

 普段は気の抜けた顔のくせに、今はデカい状態のバンクを若くしたような険しい顔立ちになっていた。

 誰かがこの状態のキャピタルの顔を見ていたとしたら、たしかにホレてしまうかもしれない、とソロは思った。

 普段は頭上に『? 』が付いているキャピタルだが、不良に絡まれているところにコイツがこの面構えで飛びこんできて助けてくれたら、とんとん拍子で付き合うところまで発展しそうだ。


「ソロ、こいつに通訳してくれよ。表出ろ、って」

「表だぞ、ここも」

 キャピタルのピチTの裾を掴むと、ソロは慌てて白山羊の後を追った。

「ありがとよキャピタル」

「あの大山羊、明らかに殺る気だったぜ」

「外国で揉めるんじゃねー」

「正当防衛だ」

 白山羊に追いつくと、子ヤギたちに囲まれるようにして、たぬキノコが項垂(うなだ)れていた。ブルーセルの後だと、全てが可愛らしく見える。

 子ヤギたちと、たぬキノコに乳を与えていたであろう牝山羊は美人に見えるし、白山羊すら今は可憐に見える。

 ブルーセルと同じ種族とはとても思えぬ。

 フワフワもこもこが全部イイ、好きだ。

「たぬキノコ」

 もこもこフワフワをかき分けてソロが駆け寄ると、たぬキノコは顔を上げた。

「ソロ・・・・・・、僕の浮島が」

 それ以上は言葉が続かず、たぬキノコは再び項垂(うなだ)れてしまった。

「タヌキの浮島は何年も前にナラ枯れにやられて、壊滅状態に陥っているのだ」

 たぬキノコの代わりに、白山羊が説明してくれた。

「どうしてそんなことがわかるんだ」

「さっきブルーセルという大山羊がいたろう。彼は3年前にナラ枯れの原因であるナラタケ退治に駆り出されて、失敗した」

「じゃ、もうたぬキノコの浮島は」

「ナラタケに支配されて、おそらく島の固有種はかなり数を減らしているだろう」

「ウソだろ」

「そういうことも起こり得る。タヌキの浮島は浮島の中でも随一の発展を遂げたが、好奇心の(おもむ)くまま後先考えずに地上の生物を採取しては実験を繰り返していた。採取したナラタケを持って帰ってきたはいいが、手に余る存在だったのだろう」

「なんだナラタケって。そんなヤバいのか」

「時と場合による」

「ただのきのこだろ。食っちまえばいいのに」

「まあな。だが食っても余る繁殖力なのさ。それを逆手に、うまいこと栽培に成功すれば、捕食者との関係にも変化が起きるだろう」

「捕食者にも食料が回れば、生物も襲われないようになるってか」

「資源がみんなに回れば争いは起きない」

白山羊の言い分はわかるが、果たしてどうだろう。

ガラテアみたいなタイプの捕食者は食糧難が解決したら、他の生物を全滅させそうな気がする・・・・・・。
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