p57 ぱんつ

文字数 1,015文字

「『連れて行く』って、食害のことかよ・・・・・・」

 昨日はうっかり好きになってしまったが、『人類は養分』と言い切っていたり、やはり相手は『道を分かつ者』なのだ。

 しかし、恐れや敵意は湧いてこない。

 祖父と母が無事だったからかもしれない。

 左手のブナシメジ(仮)の穴を埋めている白い部分をそっと撫でる。

「好きになったら、しょうがないか」

 祖父と母は子実体(しじつたい)が消えただけで、土壌に菌糸(きんし)が残っている。

 今年は姿を消すのが早まっただけで、来年になったらまた生えてくる。

 庭と親水緑道のノウゼンカズラも、来年になれば元気よく生えてくるだろう。

「また来年。お母さん、じいちゃん」

 行ってきますの代わりに言って、ソロは家を出た。だがゴミを自宅に置いてきたことを思い出して、すぐに引き返した。

『愛の夢』をリピート再生で聞きながらシンミリ登校していると、弁当を持った(弁当しか持ってない)キャピタルと校門で鉢合わせた。

 昨日の今日でさっそくコレである。

「ソロ、お前んちの近所、昨日のプロトタキシーテスの火事と一緒にニュースになってたぜ」

 今日も相変わらずピチTとハーフパンツ姿だ。着る時に破けないのだろうか。

「うちの前の親水緑道枯れてた」

「そうそうソレ。あの辺一体、一気に冬景色だと」

「オレのじいちゃんとお袋も庭から消えちゃった」

「そうかぁ。じゃあ、今年はもう食えないんだな」

「悪いな、来年まで待ってくれや」

「お前って達観(たっかん)してるよな。おれなら焦るぜ」

「そうでもねぇよ」

「でも、すげぇよ。あの辺に転がってた大昔のガワまで、一気に消えたって言うんだからさ」

それは初耳である。

「そいつは知らなかったぜ」

「あの辺の住民が散歩に出たら、いつもの場所にガワが無くて慌てて警察に通報したら、親水緑道一帯のガワが無くなってたって」

 昨晩のことを思い出して、ソロは自分の唇に無意識に触れた。

「ソロ、左手どうした? なんで収穫跡、白くなってんの? 」

「あ、これ・・・・・・」

「これじゃ穴だらけの集合体が見れねーじゃん」

「あんまし(つつし)みが無ぇのもナンだからよ。今日からぱんつをはかせることにした」

 丁度白いし実際にぱんつみたいなものだと思ったので、ソロはそういうことにした。

「はぁあ? なに出し惜しみしてんだクソ野郎。お高くとまりやがって」

「テメー思い通りにならねぇからって、そういうのよくねぇからなウンコ野郎」

 昨日たぬキノコに同じ発言をした上での、ソロのこの言動である。
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