p104 たぬキノコの浮島

文字数 1,102文字

 定時を迎え業者が地上へ引き上げるのを待って、白山羊はたぬキノコの浮島へ出発した。と、言っても、島ごと移動を開始したので動いている感はゼロである。

 プロトタキシーテスの頂上に残りたい者どもはマジで置いて行った。

「たぬキノコの浮島までどのくらいかかるんだ」

「二十分くらい」

「そんな近いんか」

「体感しにくいだろうけど、超飛ばしておる。乗り物に乗ってるもんだと思ってくれ」

「なあ、オレらってたぬキノコの浮島に勝手に上陸して大丈夫なのか? ぶっ殺されたりしねぇかな」

「基本、その浮島出身の菌類が一緒なら平気だ」

「へー、けっこうセキュリティ甘いんだな」

「向こうは数が減っている。仲間が戻って来たなら、今まで以上に大切にするだろう」

「そしたら・・・・・・、たぬキノコとはお別れ・・・・・・? 」

「それはタヌキ次第だろう。寂しいのか」

「寂しいに決まってんだろ。好きなんだから」

「素直だな、お坊ちゃん。寄生している菌類は少々侵略的なところがあるが」

「それどういう意味」

「そのままの意味さ。むっ、もう着いた」

「二十分も掛かってねーじゃん」

「二分の間違いだった。さ、早く上陸しろ。この手斧はサービスだ、持って行くとイイ」

「急かすんじゃねー。現金なきのこだぜ」

『スタン・ハンセン~サンライズ~オーケストラ版』とともに、ブルーセルの後に続いて、白山羊、手斧を持ったソロ、キャピタル、たぬキノコが上陸した。

 いい加減ウォークマンの充電が切れそうなので切った。

 夕暮れ時でよく見えないが、白く腐った切株や倒木がそこら中に溢れている。

「なんでこんな白っぽくなってんだ・・・・・・」

 ソロがブカブカした木の皮をめくると、黒い繊維のようなもの見えた。

 手斧で倒木を切りつけ割ると、中は真っ黒な菌糸で埋め尽くされていた。
量も量だし人間の髪の毛のように見える。

「エグいな」

 その倒木の脇から傘が黄色っぽくて白い軸のきのこが群生していた。

 そこら中、いたるところに、このきのこが生えている。

「なあ、そいつから生えてるきのこは食えんのか」

 キャピタルはどこから持ってきたのか、既に箸を持ってスタンバイしていた。

 コイツに収穫させると、そのまま食ってしまいそうなのでソロが株ごと取った。

 バキッという手ごたえがあるほど硬い。

「ムリ。こんな固いの食ったら腹壊すぜ」

「ちぇっ。きのこ食い放題かと思ってたのに」

 がっくりと項垂れたキャピタルだったが、気を取り直して例の鼻歌をハミングし出した。
 
 つられてソロとたぬキノコも合いの手を入れて歩を進めた。

 白山羊とブルーセルも合いの手の時だけ参加してきた。

 みんなキャピタルの鼻歌にジワジワと洗脳されていく。
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