第21話

文字数 2,235文字

「ああもう!人が多いわっ!」
「当たるなよ、マコ」
「分かってるよ!」
ああ、もう単細胞なんだから…。
春崇(ハルタカ)たちと分かれて急いで戻ったが、そこにマホロの姿はなかった。先にサメブースへ行った可能性は薄いから…って戻るかな?時間帯がずれたらすれ違っても気付かないかもな…。この人混みだし……
いろんなことを思いながら周囲を見回す。水族館内は場所によって明るかったり、ちょっと薄暗かったりと普段とちょっと違った風に見える。床はより照明がはっきりと当たらず、ふんわり足元が映る。そんな中、僕は、

を見つけた。それは、不思議と目についた。こんなに目に止まりづらいのに、どうして目についたのだろう…。
「なあ、マコ…」
「お…?」
「マホロに何かあったとは考えたくないけど…」
「おぉ…」
「…何かあったかもな…」
「え……?」
僕は見つけたものに近付いて、

を拾う。回りを確認すると、右手奥に女子トイレ表示がある。拾ったものの名前を確認する。「真称」と書いてある。
このハンカチは真称(マホロ)のものだ。
「ツネ」
「マホロのだよ。あっちに順路と違うブースがある、もしかしてあっち行ったんじゃない?」
「よし、行ってみ………」
「マコ!」
僕たちがきた方向から声がかかる。振り返ると、そこには和紗(カズサ)千穂子(チホコ)がいた。
「こんなとこで何してんの?」
「おお、ちょっと…。な、ツネ」
「う、うん」
マコがその場を急いで去ろうとすると、いつもと違う返しがきた。
「真称なら別の人といると思うけど?」
僕たちの動きが止まる。静かに千穂子も驚いているようだった。
「え、和紗なんか知ってるの?」
僕の言葉に、和紗はハッとしたように口を閉じた。
「おい、和紗。何か知ってんのか?」
「マコ」
「誰と一緒にいた!どこにいる!」
ああもう、マコに火が着いてる……。
和紗にとっては見たことのないマコだろう。いつもちょっと陽気な誠斗(マコト)は、怒ることはあまりないからな…。
和紗、ちょっと戸惑いながら、まずいと感じたのだろう。少し僕たちから距離をおこうと、あとずさる。
「知らないよ!別の学校の子が腕つかんでたからっ……!」
「「はあ?!」」
僕とマコの声がリンクする。

何だ?! それってどういう状況だよ!

「今どこにいる?!」
とマコ。あまりの剣幕に和紗もうまくいえない。
「だから知らないって!」
「じゃあどこで見たの?」
僕までつい口を挟んでしまった。
「そ、それは……」
「おい!和紗!」
「マコト!イラつくなよ!」
「だってなー……!」
「これは僕たちだけじゃダメだ…。ここは公共施設だ。大人の手を借りなくちゃ…。状況が分かんないけど、いなくなってるんだから先生に言おう!」
和紗はびくっとする。
「なんで?そんなに大事(おおごと)?」
「そうじゃないことを願うけど……」
僕の気にしすぎであってほしいけど……。
そうしてると、また人混みから知ってる顔がこちらに向かってきた。
「ツネ様!たいへん!マホロが!」

この予感は当たってほしくないけど……。

なにかを急いで伝えようとする明日菜(アスナ)を見ると、嫌な予感しかしない。


一方、探されている方は…
全く別のルートで移動していた。アンコウのブースからまるで秘密の通り道のような通路を通る。一瞬、ドキリとしたが、何人かのお客さんとすれ違ったので、通り道ではあるらしい。そこから階段で一度下に下りる。少し歩くとあっという間にサメブースまでたどり着いた。
「すごい……ワープしたみたい…」
「新しくペンギン棟ができるまではここがメイン通路だったんだ…」
私のすぐ横にいた男の子が答えてくれた。
「へえ…詳しいね」
「……水族館、好きなんだ……」
「ここは…来たことあるの?」
「あるよ…」
へえ…
「私、ペンギン…見たかったんだ…」
「……まだ見てないの?」
「うん……」
遊陸(ユウリ)と一緒にいた男の子2人は私の行き先を止めたまでは予想してたようだが、まさかこうして移動することまでは思ってなかったようだ。何だかそわそわしてるし、結構、私の話を聞いてくれてる……。
そりゃそうだ。彼らだって修学旅行に来てるんだから、こんなことしてる場合じゃない。
「おまえら、うるせえぞ…」
前を歩く遊陸が私たちに伝わるような大きさで言う。
サメブースはとても人気で、多くの人が行き交っていた。修学旅行に来ている互いの学校も、ここに多くが集まっている。マコもここに来るって言ってたから……
「サメって……めっちゃ怖いイメージついてるよな……」
ぼそっと遊陸(ユウリ)がつぶやく。

なんだ……?

発した言葉とその声の調子に違和感…。
私が気にすることではないけれど、つらそう…?
真称(マホロ)!」
多くの人たちのざわざわの中から、自分の名前が耳に届く。ハッとして声がしたであろう方向に視線を持っていく。誰かが私に気がついてくれたんだっ…!誰の声…?
回りを見渡していると、

ガシッ

左腕をつかまれた。つかんだのは遊陸だった。声は、当然のことだけど私だけでなく遊陸たちにも聞こえていて…。
今まで確かに水槽のサメを眺めていたのに、今はガッツリ私と目が合っている。
「お前の回りって結構人がいるのな」
「……離して」
「マホロ!」
はっきり聞こえた!
振り返るとそこには由寿(ユズ)がいた。
「由寿!わっ……!」
ユズを確認したのと同時に遊陸に引っ張られ、反対方向へ引きずられてく。
後ろで由寿の声がする。応えたいけど、絡まりそうになる足元を気にするのがやっとだ。早足で人混みをかわす遊陸についていく形になる。腕をつかまれているから、うまく動けない。
チラリと見えたユウリの顔は、何だか……悔しそうに見えた。
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