第7話

文字数 2,012文字

7。

 休み時間の校庭使用は小学生にとっては結構大切なことだ。大人はそれほどに思ってないようだけれど。3年生になってから、遊具で遊ぶことは少なくなった。ドッチボールやサッカー、的当て等、ボールを使った遊びが流行っていた。
「マホロ」
次の授業の準備が終わり、校庭に出ようとしたとき、マコに呼び止められた
「ラインかいといて、俺、ボール取ってくる」
「わかった。ヒロノ行こう」
「オッケー。サカエどうする?」
「このプリント出したら行くわ。先行っといて」
私と尋乃が教室を出ると、春崇と澄幸がいた。
「ハル!ユッキー!中当てする?」
「行く行く」
4人で下駄箱に急ぐと、今日の2時間目の授業がなんだったのか、算数の進み具合とか取り留めもない話をしながら校庭へ向かった。早くに出てきたから、人がまばらだ。
「やった!砂場横にしようぜ」
「いいよ」
4人で走っていき、必要なスペースに足でラインを引く。四角い囲いが完成する。
大きすぎず、小さすぎず、うん良い!
4人は満足して、マコがボールをもってくるまでそのラインの内側でタッチ返しをしながら遊んでいた。
「おい!どけよ!」
後ろから声が聞こえた後、澄幸がどさっとこけた。
「何すんだよ!」
春崇の声に彼を見ると、そこには背の高い上級生が2人とそれよりは少し背の低いのが3人いた。
「何こいつら。5年じゃない?」
ヒロノが近くに来る。澄幸は立ち上がって砂を払う。
「ユッキー、大丈夫? わざとしたの?」
ハルに向いていた視線が私に飛んでくる。
「ああ?勝手に転んだんだろ?」
「なわけ。おい!どけよ!って言ったじゃん。もう忘れたの?誰がしたの?なんの用?」
「……うっせーな、一度に言えるか!」

ええ……

「何ですか?用ですか?」
「どけよ!っつってんだよ」
「……言ってますよね。どけって」
「あ……」

少しの沈黙
春崇が言う。
「この間、俺たちにランドセルの子が靴隠したって言ったよな。何でそんな嘘つくんだよ」
尋乃と目があった。
ああ……、この人たちなのか。
周囲には休み時間を外で遊ぼうとする小学生で賑やかになってきた。なんの話をしてるんだろう?って感じで見ていくけど、遊びに夢中でこの緊迫感は伝わりづらい。
「はあ、信じたおまえたちが悪いんだろ?」
「探すの大変だったんだからな!」
澄幸、悔しそうに言う。
「そりゃ大変だったな。あったか?」
心配していないのにそのような口調で言い、笑い合う。
「何、あれ…。ムカつく」
ヒロノの言葉がどうやらボールをもってた相手に聞こえたようだ。
「なんか言ったか、おい!」
ボールを振りかぶるのが見えた。
「やっ…!」
「ヒロノ!」
咄嗟に尋乃の手をとってこちら側に引き寄せた。ボールだけ向こう側に飛んでいく。
「危ないじゃない!」
思わず叫んでいた。
「モノを当てようとするなんてサイテー!自分より力の弱いものをいじめるなんてサイテー!」
その声に周辺の子たちが少し反応し始めた。
「靴隠すとかサイテー!後から来て邪魔するとかサイテー!」
「……っ、黙れ!」
余裕で笑ってた5年が突然、私の方へ来た、かと思ったら、私の視界が急に空になって、ドンって音がして……気付くと地面に仰向けに倒れていた。
「きゃーっ!」
尋乃の声が響いた。
「マホロ!誰か!先生呼んで!マホロ!」
「何すんだよ!」
春崇が私をつき倒した5年にくってかかった。
「うっるせー!やるのか?!
春崇と澄幸につかみかかろうとした5年の背後からボールが2個飛んできた。
ひとつは5年男子の足に、もうひとつはもうひとりの5年男子の右腕付け根部分に当たった。
「おいっ!何してんだよっ!5年!」
マコの声だ。
「手だしてんじゃねえ!」
サカエもいる。
私は、一瞬、音が聞こえにくくなってたから驚いたけど、だんだん回りの騒がしさがはっきりと分かってきて、ほっとした。
「マホロー!」
「……ヒロちゃん、聞こえてるっ……」
声を出すと空気が一気にはいってきた時に、胸の辺りが一瞬苦しかった。漏れた声が苦しそうに聞こえたのか、尋乃の声が震えた。
「マホ!痛い?ねえ、大丈夫?」

ヒロノ……泣いてる?

目を赤くしてぐしゅぐしゅ言ってる。
もう…、大丈夫なのに。
心配かけちゃいけないと思って、体を起そうとする。
「だめだよ、まだ起きたら」
え?
目の前にはヒロノだけかと思いきや、右上辺りに誰かいた。誰?
「ヒロノ、泣いてたら分かんないよ。頭打ったっぽいの?」
「うっ……分かんないよ、でも、後ろに……倒れたの」
「そっか。じゃあ、先生が来るまで起きちゃだめだよ。ヒロノ、こうなったときの状況、話すんだよ」
「……分かってる……」
「……マホロ、息できる?」

ヒロノの友だちなんだ…。

「うん、だい…丈夫」
「たぶん、強く背中を打ったんだろうね。大丈夫だろうとは思うけど、動かない方がいいかも。僕はマコたち止めてくる」
そういうと、ヒロノの友だちの姿が視界から消えて、子どもの声だけでなく、先生の声が聞こえてきた。
ああ、めっちゃ怒られる……。最悪だ……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み