第4話

文字数 1,538文字

4。
マホロのいる棟に着くと、その目の前にある公園からブランコの揺れる音がした。見ると、
「マホロッ!」
ブランコに座っていた女子の顔がこちらに向いた。やっぱりマホロだった。
「マコ…」
俺はマホロに駆け寄った。近くまで来てぎょっとする。

何だか…泣いてた…のか?

「おま……えっと……平気か?」
「……マコ……聞いてくれる?」
「お、おう……」
マホロの隣のブランコに座る。
「今日さ、カズイがケガしたでしょ?山下先生がどんな状況だったか教えてくれたの」
「うん……」
「6年生が遊んでたんだって、ビオトープ近くのところで」
「うん」
「石とか投げてふざけてて、近くで遊んでた1年生に当たりそうになったんだって」
「うん…」
「1年生が、危ないから止めてって言ったって」
「うん…」
「怒った6年が追いかけてきたんだって」
「うん…」
「1年生は逃げて、逃げたところで、6年生が、ちょうどの高さにあった…木の枝を引っ張って、手を離して…それで…」
「カズイに当たったのか……」
「……うん…」
「その6年て……」
「坂下がいた。坂下だけじゃないけど……」
その話だと、今回はたまたまだったのか。
「カズイ…悪くないのに…ご免なさいって……」
もう、この辺りからは、泣いていることが隠せないくらい、マホロはグスグス言っていた。悔しくて……?悲しくて……?弟のことでこんなに泣くのか……、自分のことでは一切泣かないのに。
「カズイは?」
「病院に行ってる……」

え?
マホロん時は連れてかなかったのに?

俺にはこっちの方が疑問だった。けど、マホロにとっての問題は弟がケガしたことと、それは納得のいくものではなかったってことだ。
「マホロ……、みんな待ってたぞ」
「うん、ごめんね……」
「うん、大丈夫。おまえは?」
「うん、大丈夫になった。聞いてくれてありがと、マコ」
「……うん。いつでも聞くじゃんか」
「うん……」
マホロがブランコから立ち上がるまで、ずっと2人で座っていた。


みんなとひとり違う方向に帰ることになる栄は、6棟に続く団地内の小道を進みながら、考えていた。
4年生になって、久しぶりに高橋と帰りが一緒になった日があった。

【回想】
「サカエー!」
呼ばれて振り返ったところには、高橋がいた。あまりにも久しぶりに呼ばれたのでちょっと驚いて、反応が遅れた。
「おう、どうしたの?」
高橋が近づいてきた辺りで反応がやっと追いついた感じになった。
「久しぶりだなと思ってさ」
「6年になったら急がしそうだね」
「そうでもないよ。でも…そうだな、色々あるのかな、下級生よりは」
そう言いながら苦笑する姿は、トラブルがあったときの感じは全くない。
「サカエはまだバスケやってる?」
「うん。…高兄(たかにい)はやめたのどうして?」
もともと家が近かったのもあるが、バスケットボールクラブが一緒で、自然に仲良くなった。高兄の呼び名もその時のものだ。ポイントガードの高兄は、俺から見たらちょっとかっこ良かった。上の学年が小学校卒業で抜けていくなか、次のキャプテンは高兄だと思っていたところでクラブを辞めたのだ。
「…下手だったからだよ」
「そんなわけない」
「……サカエ」
高兄がボソッと言う。
「この間は悪かったな」
「え?」
「ごめんな」


俺は、高兄が嫌いじゃない。色々あってもやっぱり一緒にバスケをしていたときの高兄が本当だと思っている。最近、坂下といることは少なくなった高兄だけど、それはそれで寂しそうに見えるのは、俺だけなのかな。
「おい、」
ふいに声をかけられ振り返るとそこには坂下がいた。このタイミングで会うとか、ちょっとひく……
「なに?」
「…おまえ、高橋と仲良かったよな」

なんだ…? 急に……

「どうかしたの?」
「いや……」
そのまま、なにを言うでもなく背を向けて去っていってしまった。
まじで分からん……
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