第7話

文字数 1,881文字

7。

マホロとヒロノが図書館の方へ行くのを横目でチラリと確認して、弁当を開く。
「女子って何で一緒に行動したがるんだろうな」
「はあ?なんだ急に……」
俺の呟きに、惣菜パンを食いながらオミが突っ込みをいれる。
「オレはあんまり気にならないけど……」
とユッキー。
「俺も」
とハル。
「けど、マホロもヒロノも何かちょっと違う感じがする」
「うん、分かる。オレのこと変な感じに見ないもん」
澄幸(スミユキ)の発言に、みんな“なるほどね”と頷いた。ユッキーは踊りを習っていた。日舞というらしい。それは、何だか一般的な習い事とちょっと違って見えた。俺たちが知らなかっただけで、ユッキーはずいぶん小さい時から着物を着て踊っていたらしい。だからなのか、時々、動いているときの雰囲気が違って見えた。それを女子はいち早く感じ取ったのか、ユッキーをからかったのだ。
「何かなよなよしてない?」
「手の動きが変だよね、わざと?」
悪気はないのかもしれないが、言われるがわになると……やっぱ嫌だ。動じなかったのは尋乃(ヒロノ)だ。2年で同じクラスにいた時、彼女はしれっと言いはなった。
「へえ、みんなは変じゃないんだ」
全く嫌みなく、質問した感じに、女子どもが止まった。後でヒロノにどういう意味で言ったのか聞くと、
「え、みんな変じゃない?みんな違うんだから、そういう意味ではみんな変でしょう?」
俺は、そりゃそうだ、と思った。そうは思っても言葉にしてみんなの前で言うのは、言えなかったりするが、ヒロノはいとも簡単にそういったハードルを越えてくる。無理して、考えてって出てきた答えではなく、自然に出てきた言葉だからなのかもしれない。
豪華な弁当を広げているツネは、唐揚げを食べながら俺たちに弁当を見せる。
「ヒロノとマホロは…何かいいコンビ。ーおかずいる?」
サカエが卵焼きをとる。
「サンキュ。何か…マホロって不思議な感じ」
「俺、シュウマイもらい。分かる。あいつ時々ビックリするような行動するから」
オミが言う。
確かに…山下先生がいる会議室の扉は開けないよな。OKが出ても行けないよ。そんなことするかと思えば、ブランコで泣いてるし…。
「…2人とも遅いね」
ハルがお茶を飲みながら図書館の方をチラッと見る。
「あ…………」
ハルの動きが止まった。
「なに……どした?」
俺もハルの見ている方に視線をもっていく。
もう……まるで追っかけてきてるように会うじゃないか。つけてきてんのかなー…。
みんなが溜め息をつく。
「なにしてんだよ、お前ら」
「弁当食べてる」
ハルがしれっと答える。
坂下と後の2人は3年の時のやつらではない。新しい組でのクラスメイトだろうか?
「いいな、俺にもくれよ」
「なんで、4年にカツアゲ?」
おにぎりをモグモグ頬張りながらこれまたハルがしれっと答える。
春崇(ハルタカ)は、あまり先頭きってなにかをするタイプではないのだけれど、男子からの人気は高い。きっちりとやらなきゃいけないことはするし、嫌がることもない。勉強は苦手だというが、そこそここなしてくる辺り、クラスでの安定感がある。普段は目立つことがない彼だが、ちょっとしたトラブルが起こると途端にスイッチが入るらしい。怯まないのだ。
「なんだとっ……!」
「おい…」
坂下にスイッチが入りそうになった時、横にいたひとりが止めにはいった。
「こんなとこで揉めたら、間に合わないだろ」
坂下より身長が高く、短髪のその男子は、色もよく焼けていた。感触としては何かスポーツをやっていそうな雰囲気だった。
「…分かったよ」
不服そうにこちらを見ると、なにかに目が止まったようだった。突然、近くのベンチの方へ行き、何か手に取り、そのまま向こう側へ歩いていった。
「……運命ですか?赤い糸ですか?」
「やめろよサカエ。でもよく会うな~」
こうなるとちょっとキモい。
「坂下を止めたやつって、後藤じゃない?」
「え、ユッキー知ってんの?」
「そうだよね、オミ」
「ああ。野球やってるよ、あの人。クラブ違うけど練習試合でよく会う。坂下とつるみそうにないけどね」
「へえ……」
「ねえ!」
ツネの声に振り向く俺たち。
ツネはさっき坂下が近寄っていたベンチにいた。
「あいつ、何か盗ったんじゃない?」
ツネが持っているのはマホロのリュックだった。そのリュックのジッパーのとこには丸い白いボールみたいなぼわっとしたマスコットがついていた、はず……だが、今は細いヒモだけがぶらりと垂れていた。
「うそ……」
「分かんないけど、あいつ、こっち来てなんかしてたよね?」
してた……確かに近寄ってた。
「え、なに?みんなどうしたの?」
ハッとして振り返るとヒロノとマホロが不思議そうに立っていた。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み