第10話
文字数 2,430文字
これから修学旅行へ行く。行く先は兵庫。震災学習に行くのだ。
いつもより早く起きた。何しろ学校に7時にはつかなきゃいけない。徒歩で20分ほどだから、6時半には家を出る。まだ町が目覚める前、静かな世界に、この町の6年生だけが起きてる感じ。
玄関で、履き慣れたスニーカーに足を入れる。
「気を付けてね」
「うん」
お母さんが旅行バックを手渡してくれた。
「お姉ちゃん、お土産ね」
「はあ?お菓子とかでいい?お小遣い、あんま持ってけないんだわ」
「いいよ!やったー!」
パジャマ姿のままピョンと飛びはね、居間へ戻ってく桃 。
「もう…。尋乃 、気にしなくていいから、楽しんで来なさい」
「お菓子くらいいいよ。それにさ、お見送りもしてくれたし。じゃあ、行ってきます」
玄関を開けると、少し冷やされた空気がほっぺたに触れた。
「うっわ、さむっ…」
クリーム色の上着の前を閉じる。昼間は暖かいけど、朝夕は寒いだろうって、1週間前にお母さんが買ってくれた上着だ。
「すごい、はは様正解だわ…」
世のお母さんて、天気も気候も読めるんだよね…。
階段をおり、棟を出る。
空は明るくなったばかりで、空気は新しい感じがした。
「よー、尋乃 !」
「おはよー春崇 」
今日は、ハルと一緒に学校へ行く。
「起きれたみたいだな」
「うん。緊張したわ…」
「はは、俺も」
黒い旅行バックの春崇は、いつもと変わらない出で立ちなのに、ちょっと頼もしく思えた。ふむ……。肩に掛けて来たのが偉そうに見えたのかな?
いつも通る道は、車も少なく、通学、通勤の人もそんなにいないから、何だか別世界を歩いているようだった。
「時間帯によって違うんだな~」
「だね~」
音が少ないからか、お互いのバックから聞こえる留め金の擦れるカチャカチャといった音が響く。
「ヒロノ」
「ん?」
「あれ」
「ん?」
ハルが指差した方向を見ると、そこにはマコとツネ様がいた。いつメンでいつもの分岐点に集合することにしたのだ。一番乗りはマコたちだったか。
ん?
ふたりの影にかくれて誰かいる…?
「あれって…和紗 …?」
「え?」
私の呟きにハルが目を凝らす。
「ほんとだ…。何してんだ?」
マコとツネ様は、旅行カバンを地面に置いて、何やら話している。近付くにつれて、私の中のモヤモヤが確信に変わってく。
ここのところ和紗の言動や、なんとなーくの雰囲気でちょっとした予感がしていた。それが、ここに来て的中している気がした。
ああ……やっぱりね……。
「おーい、おはよう!」
ハルが手を上げ、声をかける。
マコとツネ様がこちらを向く。つられて和紗も顔を向けた。
「おはよう、ハル、ヒロノ」
ツネ様、朝から爽やかな笑顔だ。
「おはよ。あれ?真称 は?一緒じゃねえの?」
マコ、通常運転ね…。
「おはよう。一緒じゃないわよ。ちゃんと来るわよ、もう…」
「ほんとだ…ほら、そう言ってたら来たじゃん」
ハルが指差した先には、中学生が持つようなスポーツバックを持った真称が見えた。
まあ…真称だけじゃなかったんだけども。
「玄都 !」
マコが驚いて思わず名を叫ぶ。
真称の横には同じくスポーツバックを斜めがけした玄都と、オレンジ色の旅行カバンを持った澄幸 がいた。
ユッキーもいるじゃんか……。マコには見えてないんかな?あまりにどストレートな態度に笑うしかない。
「おはよう。みんな早いな~」
柔らかい声のユッキーが眠そうに手をヒラヒラさせる。
「おはよう。栄 と丈臣 と匠 がまだ?」
真称、チラリとメンツを見て問う。
「うん、そうだね」
周りを確認したツネ様が答える。
マコはそれどころじゃない。玄都に近寄り、なんで一緒なのかを聞いてる…。玄都は玄都で何でマコの許可がいるんだと騒いでる。早朝ですから…。今から長丁場ですから…。全く…
「マコは朝から元気だねー」
2人を見ながら私の横に来た真称が、呆れたように言う。
「ほんとだよ……もう…」
「ねえ、和紗がいる」
「うん、そうなの。私たちが来た時にはマコとツネ様がいて、そこに和紗もいたのよね」
「へえ。千穂子 と一緒に来るのかと思った」
「だよね…」
「あれ…こっち見た」
うーん、見たね。気になるよね…いろいろ。マコの態度から分かるだろうからね…。
和紗はすぐに視線をツネ様に移すと、栄たちの住む棟がある方向へ走っていく。
「あれ?どっか行ったね」
「行ったね」
何だったんだ?そう思っていると、ツネ様が近付いてくる。
「おはよう」
「おはよう。和紗、どうしたの?」
「ああ、ここで待ってたら声かけてきたんだ。まあ…最近よく話すんだけどね」
「同じサッカークラブだっけ?」
と私。
「そうなんだ。でも話し出したのは6年生になってからかな?尋乃は知ってるよね、和紗」
「うん」
和紗は根はいい子なのよ。それは知ってるんだけど、特別な気持ちが出てきた時にどんなこと考えるかは分かんないんだよね~。
「あれ?」
ツネ様の腕に緑のミサンガが見えた。私はつい指差してしまった。
「あ、ミサンガ」
永朝 は指差した先にある手首のミサンガを見せるように胸元近くに上げた。
「これ?マコのと一緒。マコはレギュラー入り記念。僕は受験に向けて」
これか~…たぶんトラブルになってる元のミサンガは。
「どうかした?」
「別に、どうってこと無いんだけど。真称が教えてくれて、ね、真称」
「うん。この間、マコと見せてくれたでしょ?」
「え、気になってたの?」
「え?気になってというか…。まね」
「ふーん……」
そうこうしてると、栄たちも到着し、無事に学校へ向けて出発することになる。
和紗は、きっとマコを好きなんだな。で、マコが真称を好きかもって思っただろうな。ツネ様は最近和紗と話す機会が多いって言ってたな~…。美花菜 が勘違いするのは目に見えてる。和紗がツネ様を好きだと思ってるのかなぁ。うーん…仮説だけど、そんな気がしてならない……。
何事もなく帰ってきたい…。
「尋乃 」
「なに、ハル」
「…考えすぎんなよ」
……心の声でも漏れてたかしら?
いつもより早く起きた。何しろ学校に7時にはつかなきゃいけない。徒歩で20分ほどだから、6時半には家を出る。まだ町が目覚める前、静かな世界に、この町の6年生だけが起きてる感じ。
玄関で、履き慣れたスニーカーに足を入れる。
「気を付けてね」
「うん」
お母さんが旅行バックを手渡してくれた。
「お姉ちゃん、お土産ね」
「はあ?お菓子とかでいい?お小遣い、あんま持ってけないんだわ」
「いいよ!やったー!」
パジャマ姿のままピョンと飛びはね、居間へ戻ってく
「もう…。
「お菓子くらいいいよ。それにさ、お見送りもしてくれたし。じゃあ、行ってきます」
玄関を開けると、少し冷やされた空気がほっぺたに触れた。
「うっわ、さむっ…」
クリーム色の上着の前を閉じる。昼間は暖かいけど、朝夕は寒いだろうって、1週間前にお母さんが買ってくれた上着だ。
「すごい、はは様正解だわ…」
世のお母さんて、天気も気候も読めるんだよね…。
階段をおり、棟を出る。
空は明るくなったばかりで、空気は新しい感じがした。
「よー、
「おはよー
今日は、ハルと一緒に学校へ行く。
「起きれたみたいだな」
「うん。緊張したわ…」
「はは、俺も」
黒い旅行バックの春崇は、いつもと変わらない出で立ちなのに、ちょっと頼もしく思えた。ふむ……。肩に掛けて来たのが偉そうに見えたのかな?
いつも通る道は、車も少なく、通学、通勤の人もそんなにいないから、何だか別世界を歩いているようだった。
「時間帯によって違うんだな~」
「だね~」
音が少ないからか、お互いのバックから聞こえる留め金の擦れるカチャカチャといった音が響く。
「ヒロノ」
「ん?」
「あれ」
「ん?」
ハルが指差した方向を見ると、そこにはマコとツネ様がいた。いつメンでいつもの分岐点に集合することにしたのだ。一番乗りはマコたちだったか。
ん?
ふたりの影にかくれて誰かいる…?
「あれって…
「え?」
私の呟きにハルが目を凝らす。
「ほんとだ…。何してんだ?」
マコとツネ様は、旅行カバンを地面に置いて、何やら話している。近付くにつれて、私の中のモヤモヤが確信に変わってく。
ここのところ和紗の言動や、なんとなーくの雰囲気でちょっとした予感がしていた。それが、ここに来て的中している気がした。
ああ……やっぱりね……。
「おーい、おはよう!」
ハルが手を上げ、声をかける。
マコとツネ様がこちらを向く。つられて和紗も顔を向けた。
「おはよう、ハル、ヒロノ」
ツネ様、朝から爽やかな笑顔だ。
「おはよ。あれ?
マコ、通常運転ね…。
「おはよう。一緒じゃないわよ。ちゃんと来るわよ、もう…」
「ほんとだ…ほら、そう言ってたら来たじゃん」
ハルが指差した先には、中学生が持つようなスポーツバックを持った真称が見えた。
まあ…真称だけじゃなかったんだけども。
「
マコが驚いて思わず名を叫ぶ。
真称の横には同じくスポーツバックを斜めがけした玄都と、オレンジ色の旅行カバンを持った
ユッキーもいるじゃんか……。マコには見えてないんかな?あまりにどストレートな態度に笑うしかない。
「おはよう。みんな早いな~」
柔らかい声のユッキーが眠そうに手をヒラヒラさせる。
「おはよう。
真称、チラリとメンツを見て問う。
「うん、そうだね」
周りを確認したツネ様が答える。
マコはそれどころじゃない。玄都に近寄り、なんで一緒なのかを聞いてる…。玄都は玄都で何でマコの許可がいるんだと騒いでる。早朝ですから…。今から長丁場ですから…。全く…
「マコは朝から元気だねー」
2人を見ながら私の横に来た真称が、呆れたように言う。
「ほんとだよ……もう…」
「ねえ、和紗がいる」
「うん、そうなの。私たちが来た時にはマコとツネ様がいて、そこに和紗もいたのよね」
「へえ。
「だよね…」
「あれ…こっち見た」
うーん、見たね。気になるよね…いろいろ。マコの態度から分かるだろうからね…。
和紗はすぐに視線をツネ様に移すと、栄たちの住む棟がある方向へ走っていく。
「あれ?どっか行ったね」
「行ったね」
何だったんだ?そう思っていると、ツネ様が近付いてくる。
「おはよう」
「おはよう。和紗、どうしたの?」
「ああ、ここで待ってたら声かけてきたんだ。まあ…最近よく話すんだけどね」
「同じサッカークラブだっけ?」
と私。
「そうなんだ。でも話し出したのは6年生になってからかな?尋乃は知ってるよね、和紗」
「うん」
和紗は根はいい子なのよ。それは知ってるんだけど、特別な気持ちが出てきた時にどんなこと考えるかは分かんないんだよね~。
「あれ?」
ツネ様の腕に緑のミサンガが見えた。私はつい指差してしまった。
「あ、ミサンガ」
「これ?マコのと一緒。マコはレギュラー入り記念。僕は受験に向けて」
これか~…たぶんトラブルになってる元のミサンガは。
「どうかした?」
「別に、どうってこと無いんだけど。真称が教えてくれて、ね、真称」
「うん。この間、マコと見せてくれたでしょ?」
「え、気になってたの?」
「え?気になってというか…。まね」
「ふーん……」
そうこうしてると、栄たちも到着し、無事に学校へ向けて出発することになる。
和紗は、きっとマコを好きなんだな。で、マコが真称を好きかもって思っただろうな。ツネ様は最近和紗と話す機会が多いって言ってたな~…。
何事もなく帰ってきたい…。
「
「なに、ハル」
「…考えすぎんなよ」
……心の声でも漏れてたかしら?
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