第11話

文字数 2,656文字

 旅行の初日は、語り部さんからのお話しを聞くことになっている。バスに酔わないように酔い止めを飲んできた。朝食もハムサンドをひとつにりんごジュースにした。オレンジだと酔うらしいよ、とお母さんが用意してくれた。ちょっと嬉しい。
「窓際、真称(マホロ)座っていいよ」
 バスはクラスごとで乗る。バスは尋乃(ヒロノ)と隣同士で乗ることを話していた。
「え、いいの?」
「私、バス強いんだ。だから大丈夫」
「分かった。ありがと」
 手持ちのリュックだけ持って乗り込んだバスは、それほど大きいわけではないのに、ワクワクした気持ちがそう見せるのか、特別な感じがした。
「みんな、乗ってるよね?」
 担任の森先生が後ろまで確認しながら横を通っていく。
「出だしで乗り遅れってないよね」
 尋乃がこそっと呟く。
 手持ちリュックを足元に下ろしてシートベルトを装着する。
 いよいよだ。
「あ、そうだ、真称。さっきさ、和紗(カズサ)が話しかけてたけど、なに話してたの?」
「ああ、あれ?」
 学校について、教室で点呼をとったあと、荷物を持って校庭へ出た。その移動中、突然呼び止められたのだ。

 【回想】
「真称だよね?」
「え?」
 振り返ると、和紗がいた。
「そうだけど」
「朝、会ったよね。私のこと知ってる?」
「うん。尋乃からきいてるよ。和紗でしょ?」
「あ、そっか。尋乃と仲良いもんね。そっか、だからマコとツネ様とも仲良いんだね」
「うーん…よく分かんないけど…」
「いいの、ありがと」
「あ、うん……」


「以上です」
「なんだそりゃ」
「なんでしょう」
 まあ、なんだかよく分からないけれど、確認されたような気がする。和紗は何かに納得したみたいだけど、私にはさっぱり分からない。
「呼び止めといて名前の確認かー?」
「はは、そうかも。これでお互い間違えない」
「真称~。もう、かわいいからアメあげる」
「わーい。じゃあ、私はチョコあげる」
「いやん。じゃあラムネもつけるっ」
 早々におやつを出して盛り上がっている私たち2人とは違って、1号車と3号車は気まずかったようだ。

 1号車(1組)では……
「おい玄都(ゲント)、俺は抜けがけって好きじゃねえんだ」
「俺だって嫌いだ」
 朝のことを

ひきずり気味ではあるが、何だかんだで隣同士に座る。
「朝から元気だなー。俺たちが行くまでに何かあったのか?」
 すぐ後ろの席から身を乗り出して、マコの頭上から声をかけるのは(タクミ)だ。
「聞くな匠。どうせ真称(マホロ)がらみだろ」
 ため息混じりに言う(サカエ)。それにムッとするマコ。
「どうせってなんだよ」
「違うの?」

 違わないけどさ……

「俺がマホロと一緒に集合場所に来たからさ、きっと気に入らないんだよ」
「そーだよ!玄都が一緒に来たんだ!」
「だけど、ユッキーも一緒だったんだぞ」
「おまえ、時間見計らったんじゃねえの?」
「…………んな訳ねえわ」
 みんなが思う。その()は何……?
「お前さ、集合場所にはそれぞれで行こうって話だったよな?」
「時間がかち合っただけだって!」
「えーっと……、迎えに行かないって協定結んでたの?」
 匠の質問に俺と玄都はグッと言葉につまった。
「ああもう、ほっとけ匠。こいつらこれで仲が良いいんだからさ」

 良くないわ!

 栄はニッと笑ってシートベルトをつけた。
「2泊3日だぜ?もっといろいろ見れるぞ。さてと、真称はどう反応するかね」
「ほんとだねー。真称ってケンカ好きじゃないよねー」
 匠、栄に続きシートベルトを締める。
「「……」」
 俺と玄都は静かにシートベルトを着用する。
 俺だって別にいざこざばかり起こしてる訳じゃないけど、真称ってちょっと違くて…。目が離せないっていうか、俺の知らないとこでいつも傷ついてたりするから、いても立ってもいられないっていうか…。

 …………俺って 

「男のお節介ってどうよ……」
「はあ?」


 一方、通路を挟んだ2列前方の席に和紗(カズサ)千穂子(チホコ)が座っていた。
「和紗、朝、マコに会えたんだね」
「うん。ちょっと早起きしなきゃだったけどね」
「良かったね。旅行中写真撮れるといいね」
「うん……」
 朝、マコと玄都のやり取りを見て、何だかマコの気持ちが分かった気がする。真称ってどんな子なんだろうって思って、声をかけてみたけど、特別かわいいって訳でもなくて…。けど、尋乃と仲が良いから仲がいいってだけではない気がする。この旅行で聞いてみても良いかも…。


 3号車(3組)では、
「朝から騒ぎすぎじゃね?」
「まあ、マコと玄都だからね。通常運転の範囲内でしょ」
「ツネ…悟ってんのな……」
 ここは永朝(ツネトモ)丈臣(タケオミ)がセット。澄幸(スミユキ)春崇(ハルタカ)がひとつ前の席にいる。
「あのさ……」
 突然、前方から体を乗り出してくる春崇。
「うわっ!なっ、どしたハル」

 そんなに驚かなくてもいいじゃんか…

 一瞬、スンとなってしまったが、気を取り直す。
「うん……あのさ、気になることあって」
 ツネ、オミ、顔を見合わせる。
「何、ハルがそんな顔するの珍しいじゃん」
 オミ、手持ちのリュックを膝に置き、ハルを見る。
「……和紗と美花菜(ミハナ)、ちょっと気にしといて」
 ひょっこりユッキーも顔を寄せる。
「おっと、あまり出ない名前だね」
「……うまく言えないんだけど、尋乃、困ってるんだと思うんだ」
「尋乃が?ふーん……分かった。僕もちょっと気になってることあったし」
 と、ツネ。
「ぼくもいいよ、別に気にしとけば良いんだよね」
 と、ユッキー。
「りょうかーい」
 と、オミ。
「旅行なのに変なこと言ってごめん」
「何いってんの。変な気を使うなよ」
「うん」
 俺は、体を戻してシートベルトをつけた。
 尋乃は、友だちが好きだ。というか、たぶん“人”が好きなんだと思う。自分からいろんなことに関わっていって、相手に驚かれていた保育時代。いろんなことしたくてパワーが溢れてた。尋乃は気付いていない。周囲は尋乃みたく行動できないということに…。何してても前向きなもんだから、正直な行動で体現するが、みんながそうではない。好きも嫌いもはっきりしている尋乃は、時折一人になった。彼女のパワーについていけなくて、そっと離れていくのだ。すると当然、なんでかと聞きに行く、どうして一緒に遊ばないのかを聞くのだ。繕うことが苦手な彼女は嘘もつけない。それは、周りにも自分にもだ。集団でうまくやっていこうと思うと、時にはざっと適当にってことだってある。尋乃はそれが苦手だ。やろうとすることはあるが、から回る。

尋乃(ヒロノ)
「なに、ハル」
「…考えすぎんなよ」

 あれは、確かに尋乃に向けて言ったんだけど、俺の心にも刺さった。
 俺がグッチャになってどーすんだ!しっかりしろよ俺!
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