第3話

文字数 2,501文字

「マコ、珍しく2着だったね」
今日は、珍しくイツメンで帰っている。いつもは尋乃(ヒロノ)と一緒に帰ることが多いのだけど…。誠斗(マコト)永朝(ツネトモ)澄幸(スミユキ)春崇(ハルタカ)(サカエ)丈臣(タケオミ)も一緒だ。
5年生になってからは数回しかないこのパターン。相変わらずとりとめのない話しをしながら帰っていた。そして、ちょうど、歩道橋を渡るところでヒロノが思い出したように呟いたのだ。
「そうなの?」
私はというと、ちょっと気分が悪くなって、途中から木陰で休んでいた。だから、走っているところを見ていない。
マコの方に目をやると、マコはちょっと気まずそう。ツネ様は「あっ……」と言葉につまった。サカエもマコを見る。
「ん?何かあった?」
微妙な空気感が気になってツネ様に聞いてみる。
「え?いや?……別に、ね」
まごつくツネ様に、変だなと思いながらも、それ以上は聞かないけど。
ヒロノも変だなと感じているようで、私と目が合う。
「そ、それよりさ、大丈夫なの?」
ツネ様が話を反らした。
「え?」
「体育、途中で見学してたでしょ」
「あ……、うん。ちょっと気持ち悪くなっちゃって」

見えてたんだ…。恥ずかしいな…。

「大丈夫?熱中症?」
「ああーどうかな。でも保健室で涼んだら楽になったから……そうかも」
ツネ様は近くにある病院の息子さんで、本人も医者になるつもりである。だからなのか、体調の変化にとても敏感だ。
「マホロの大丈夫は、大丈夫じゃないこと多いから、私、気にしてる」
ヒロノが両手を腰において、えっへん、と胸を張る。
「すみません…」
確かに、ヒロノに声かけてもらって、自分の体調の悪さに気がついた。顔が青いっていわれても、自分じゃ分からない。
「ほんと、クラブでも時々ヤバイんだから……」
「ヒロノ!」
「あ」
一瞬、時が止まった感じになった。
ヒロノさん、男子の視線を一身に集める。

……悪気ないって分かってるけど…

「クラブ…って言ったか?」
とマコ。
「えー?何か言ったっけ?」
ヒロノ、焦る。
「え?何かはじめたの?」
とツネ様。
「え?え~っと……」
じわじわと私の後ろに隠れるヒロノ。
「えっと……それってふたりではじめた?」
とハル。
「あ、っと……ねえ、」
もはや合いの手のよう
「あれ?聞いたことあったかな……」
と、ユッキー。
「あ、え、……っと」
わちゃわちゃしだしたヒロノ。
もう…ちょっと様子見ようって言ったのに、口滑っちゃうから。歩道橋を渡りきるまでわちゃわちゃしていた。クラブって?とか、いつから?とか。どこの?とかとか…。ヒロノは次々に質問されてどぎまぎ。まあ、べつに隠すことでもないのだけど。こんな風に聞かれることが予想されて、そういうの、ちょっと苦手で、どうしていいか分からないから、ヒロノにちょっと黙ってようって提案した。……けど、思ったより早く口が滑りましたね……。
「えーっとね……」
団地へ向かう小道に近付いて来たところで、私は口を開いた。
「4年生の頃からヒロノに誘われてたんだけど、踏ん切りがつかなくて。5年生になって、2人で見学したの」
車の通りがなくなって、声が聞き取りやすくなった。6人は黙って聞いている。
「週に1回だけでもいいってことだったから。じゃあ、行ってみようかなってなったの。でも、色々あって、まだ数回しか行けてないけど」
「え、なんのクラブなん?」
栄が聞く。
「バレーボール」
「もしかして、土曜日の放課後、学校の体育館でやってるやつ?」
「そう!え、ツネ様、知ってるの?」
「え?う、うん…」
ヒロノが息を吹き返した。よかった、わちゃわちゃがなおって……。
「ずっとマホロと何かしたくて。みんな何かしらやってるよね? マコもサッカーとか、オミも野球でしょ? だからさ、ちょっとさ、やりたくてさ…」
ヒロノの気持ち、分かってるつもりだったけど…。そっか、私とバレーやりたかったんだ。
分かってたはずの友だちの何気ない思いに触れて、気まずくなる。それを黙ってようって言うのは、私のわがままだ。
「で、なんで黙ってたんだよ……」
黙って聞いてたマコが私を見る。
「え…、ごめん……言いにくかった」
「なんで」
「…いろいろ聞かれると思って……」
「え、そりゃ、聞くだろ」
「どうして?」
「どうしてって……気になるだろ?どんなことしてるかとか……」
ちょっとまごつくマコ。
「まあ……絶対に言ってってことではないけど、知りたかったりはするかな」
ツネ様も言葉を足す。
「言う言わないとかってことじゃないけど、知らなかったら、ふーん、ってなるかな~……」
ユッキーも言う。
「……そっか、」
私は、こういうのがよく分からないのだ。「何してた?」って聞かれることって、あまりない。
「あ、あのね!マホロは自分のこと聞かれるの慣れてないんだよ。だから、ちょっとずつ言うつもりだったんだと思うんだ、ね」
ヒロノ、6人を見ながら言う。
私は、ヒロノにそういう話しをしたことないけど、まるで自分のことのように話してくれてる。
「ごめんね、ヒロノ…」
「マホロ、ごめん。もうちょっと待ってって言ってたのに」
「うううん、ごめんね」
私がみんなとちょっと違うんだよね。
この頃には、団地へ向かう歩道から、1つ目の分岐点に到着していた。ここから右にサカエとオミは帰ってく。だから、みんなで帰るときは、だいたいここで遊ぶ約束をする。
「私、みんなのこと裏切った?」
「え?……」
ポロリと出た言葉にみんながぎょっとする。その反応に、またなんかやってしまったと感じとった。
「……ほんと、ごめんね、今日は帰るね」
みんなが嫌な思いをしたなら、私はいちゃいけないな。
「マホロ待って!私も行くから!みんな、遊ぶなら東公園でしょ?あとでね!」
「ヒロノ!俺もいく!ユッキーも行くぞ!」
「え?ハル?もう!じゃあ、みんなあとでね」

残されたのは、マコ、ツネ、サカエ、オミ。で、マコはツネに睨まれる。
「マコ、」
「…………俺だよな」
「へえ、自覚あるんだ。成長だね」
永朝(ツネトモ)、腕組みして本気で怒ってます。
「えっと……俺たち家に帰って、」
「サカエ、俺もそっちいく」
「ああ?マコ、おまえこっちじゃないだろ?」
「だって……」
誠斗(マコト)の視線が永朝にいく。
「なんだよ。逃げんのかよ」
「違うわ!」
丈臣(タケオミ)(サカエ)と顔を見合わせる。
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