第15話

文字数 2,147文字

15。

真称(マホロ)が手を洗いに行った後、ちょっと遅いな、戻ってこないな、とマホロを心配していたヒロノ。そこに、ひととおり楽しんだからと戻ってきた誠斗(マコト)
「え?水飲み場にいなかったぞ?」
「あれ?おかしいな…。サカエが手を洗いに行くってマホロが言ってたって」
俺は、ヨーヨー釣りでとった水色と黄色の2つのヨーヨーを、右手でパチンパチンとつきながらちょっと考える。
ヨーヨー…1個、あげたいんだけど。
「ヒロノのお姉ちゃーん!」
テント方向からマホロの弟が駆けてきた。
「どうしたの、カズイ。そんな走っちゃって……」
「だって、お姉ちゃんが」

ん?

「マホロがどうしたって?」
思わず声をかけてしまう。
「お姉ちゃんのマスコットをとったやつがいて、返せって言ったけど、返してくれなくて。そしたらお姉ちゃんが来てくれて……」
マスコットって……盗ったやつって……

坂下ー……、絡みすぎだろ……

「え、それって……」
「お姉ちゃん、ヒロノ姉ちゃんのとこ行けって」
カズイとその友だちがばつが悪そうに俺たちを見る。ヒロノはにっこり笑うとカズイの肩にそっと手を置く。
「偉いね、カズイ。で、マホロはどこにいる?このおにいちゃんと…」
ちょっと視線を上げるとオミがこっちに来るのが見える。
「オミー!」
俺の声にくじ引きで当てたであろう風船の剣を肩にかついでこっちを見る。
「呼んだかー?」
オミが返事する。
「あのお兄ちゃんが見に行くから。どこにいるの?」
ヒロノはシレっと言う。3人は顔を見合わせる。
「公園の入り口からでて、すぐの、小道はさんだ向かい側の、棟と棟の間!」
長髪をひとつにくくっている男子が口を開く。
「おし、よくわかった」
ヨーヨーをバインバインさせながら、オミの横を通る。
「どーした、マコ…」
「オミ、ちょっと来てよ」
「…いいよ」
俺は、ちょっとイラついていたんだと思う。まだ、この間の図書館近くの公園での件がモヤモヤしていたんだ。
だいたい、すぐに親に言えばいいんだよ、盗られたって。でも…でも、きっとマホロはしない、出来ないって何となくわかってたんだ。親に言えないのか言わないのかは分からないけど、そうしようって思えないんだよな、きっと。
恥ずかしい……とかなのかな?大人に言いたくないとか? 自分たちで何とかしようってことか?まあ、そう出来ればそうしたいけど、そんな感じでもないし…。ああもう、こうやってグルグルしちゃうんだよな。
「ああもう!」
「おい!マコト!」
突然走り出した俺に、オミが慌てる。
公園入り口にある鉄のポールを飛び越えて、道の向こう側へ急ぐ。

ん? 声が聞こえる……!

棟と棟の間からだ。この声は
「マホロ!」
飛び込むと、マホロと坂下と……

あれ、この人……

図書館横の公園で、出くわした6年のうちのひとりがいた。
「え、なにしてんの?え?どうして 後藤くん?」
少し遅れて到着したオミ、メンツに驚く。戸惑っているオミを他所に、俺はマホロに向かって声をかける。
「何かあった?みんな待ってるよ」
「うん、ごめん」
妙に落ち着いてるマホロの声が気になったが、こっからじゃあ顔が見えない。
坂下がズボンのベルトを通すとこにマスコットを下げてるのが、ホントにいやで仕方ない。マホロはきっと、それを返してほしいとは言わないだろう。
ずっと坂下と向き合ってたが、俺の方を向き、「行こうか」と声をかけてくれた。顔を見て少し安心した。大丈夫…、怒ってはいるけど傷ついてない。
じゃあ、と歩きかけたとき、後藤の方が話し始める。
「こいつが持ってるマスコット、お前のなんだな」
「…だったら…?」
止まって振り返るマホロ。
「坂下…お前、そうやってウソついてたらまたしんどくなるぞ」
「ウソって……!」
「ごめんな……こいつ、これ妹がくれたって言ったんだ。俺が妹がお守り作ってくれたって言ったら、俺もあるって…」
「なんだよ!お前も信じないんか!」
坂下は、そういうと、その場から走って行った。
呆気にとられた俺たちは、坂下が去っていった後を何となく見つめていた。
マホロはふーっと静かに息を吐いてた。なにも言わなかったが、呆れてるようにも見えた。
「あいつさ、悪いやつじゃないと思うんだよね……」
後藤が言う。
「でもさ、人のもの持ってったり、ウソついたりするのって悪いやつだよね」
オミが後藤の方を向いて言う。
「それはそうだけど……どうしてそうなるんだろうって思うんだけど……」
うまい言葉が見つからないって感じで、眉がハの字になる。後藤くんは坂下のことをホントに心配しているのだろうな、俺がマホロを心配してしまうように…。
「坂下は……もったいないよ」
「え?」
マホロの声は驚くくらいはっきりとしていて、たぶん、そこにいた俺にもオミにも後藤くんにも聞こえた。
「気付いてくれる友だちがいつもいるのに、あいつが気付いてない」
俺には…マホロのそういうとこがちょっと分からねえ。どうしてムカつかないんだろう…。いやな思いさせられてるのに、相手のことを考えているようだ。
「後藤くん」
「え」
「あっちに高橋くんもいるんですけど、行きませんか?」
「え……え?俺に言ってる…?」

後藤くん…あんたの反応、分かるよ…

「坂下、どっか行ったし、せっかくのお祭りだし、行きましょう。ね?マコ、オミ、いいでしょ?」

ダメとか…言えないだろ……
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