第15話

文字数 1,619文字

「なんだそれ…」
「うん、だよね」
「まあ……大人ってさ、よく分かんないことするからさ。俺たちに、なんも知らないと思って言わないこととか多いし…」
「あ、それ、分かる」
「だろ?」
教室に荷物を取りに行った後、玄都(ゲント)と一緒に帰っている。今日は応援団で小物を作ったとのこと。2組の割り当てがあったわけではなかったらしく、後で特にすることはなかった。彼は、状況を簡潔に話してくれた。おかげで、もやっとしていた気持ちもどっかへいった。気持ちが切り替わったというか…。そしたら、今度は玄都の方が、用事はなんだったの?って聞いてきた。私は、玄都に説明しながら、結局よく分からなかった、ということが

ことに気づいた。
「雰囲気?って分かるじゃん」
いつもの歩道橋を渡る。横にいるのが尋乃でもマコでもツネ様でもない。なんだか風景が違う。背の高い玄都越しの歩道橋から見た景色は、ちょっと空の色が混ざる。下から吹き上げてくる風が前髪を上へとなびかせる。意外に適当な返事で終わらない会話も、テンポもいやではない。
「でも、大人たちって分からないんだよ。俺たちが嫌だと思ってることとか、不信に思ってることとか」
「ふしん?」
「ああ…えっとね、信じてないってこと」

 信じてない……

そうか……私は、あの場の雰囲気から、あの場にいた大人を信じてなかったんだ…。
「おい、マホロ」
「え?」
「大丈夫?」
「何が?」
「だって…泣きそうだよ?」

え?

頬をさわってみる。涙がついているのかと思ったのだ。
「俺、変なこと言った?ごめん」
「なんで謝るかな。玄都のセイとかじゃないよ、大丈夫」
玄都、軽く頭をかいて言う。
「ああ……なんか、俺って、言わなくていいこと言っちゃうみたいでさ」

 え

「よく注意されるんだ…」
「大人に?」
「そう」
「……私もよくうるさいって言われる」
「え、大人に?」
「うん。なんか…そんな話してるつもりないけどね」
お互い思わず笑ってしまう。子ども同士ではなんてことなかったりするけど、大人が引っ掛かることって結構ある。その物差しや基準がよく分からない。今日はよくて昨日はダメだったりする。子ども同士でも分かり会えないこともあるのだけれど…
「基準がよくわかんないんだよなー…」
?! そ、そうなの!昨日と今日で違ったりするの!」
「分かるー、今日はダメなんだ、みたいなことよくあるよな」
うわー…同じものを見ている感じがする。これはちょっとくすぐったい…。
「玄都は、今日、私のもやっとを聞いてくれたじゃない。スッキリした。ありがとう」
「お…、おう。

だからな」
「だったら、ずっと

だ」
「…そっか、だな」
「うん」
 玄都ははにかんだ笑顔を見せる。いつもはキリッとしてるから、くしゃっとした顔が新鮮だ。
「玄都ってイケメンだ…」
「今頃かよ」

否定しないのね

そして、2人で、もうひとりの

である、(タクミ)のところに行く事にした。
「俺、28棟なんだ」
「え、マコと一緒だ」
玄都の眉がピクッてなる。
「マコ?あいつ、同じ棟かよ…」
「マコのこと知ってるの?」
「ああ…っと、丈臣(タケオミ)がよく話すから……」
びっくり……思わぬとこから知ってる名前。
「オミのこと、知ってるの?」
「え?うん、野球のクラブチームが一緒だからさ……え、オミッて呼んでんの?」
「そう」
「へえ……」
いつメンだと、もう話さなくなった呼び方とか、誰と交流があるかとか、そんなことは当たり前になっちゃって、いつの間にか話さなくなった。何となく、阿吽のやり取りになりがちだ。そうか…だから気を張ってないんだな、尋乃たちと話すときって。普段は気にしないことだけど、何だか今日は違うってことが際立つ。
「じゃあ、28棟の前にある公園で待ち合わせようよ」
「いいけど……。真称(マホロ)は何棟?」
「え?23棟」
「じゃあ、23棟まで行くよ。どうせ通り道だし、前通るじゃん」
まあ、確かにそうだけど…
「どうせなら、荷物置いてくるまで待ってようか?」

ほんと、マコみたい……。



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