第15話

文字数 1,703文字

「わあ!クラゲだよ!クラゲっ!」
「はしゃぐな尋乃(ヒロノ)!」
見たものに飛びつく尋乃、追いかける春崇(ハルタカ)
「チンアナゴだって。ゆらゆらしてるぞ」
「アナゴなのに小さくてかわいい」
「警戒心が強いらしいよ、玄都(ゲント)みたいだね。わっ、絶滅危惧種だって…」
「誰が絶滅するって?」
そこに便乗する(サカエ)とわが道の澄幸(スミユキ)。鋭い指摘の(タクミ)にしっかり聞いてる玄都(ゲント)。場所は変わってもいつメンといるとこうなる。
自由行動の水族館では、最初の集合後、待ってましたとばかりにみんなが散った。
私は、公園での約束通り、尋乃と一緒に誠斗(マコト)、玄都、匠、栄、春崇、澄幸、永朝(ツネトモ)丈臣(タケオミ)と合流した。
他の観光客もいる中、友だちと一緒に初めての場所を見て回るのは、ちょっとした緊張と特別感があった。家族とも行ったことのない水族館に、ひとり来てしまったっていう一維(カズイ)に対しての罪悪感もある。
「人が多いのに混んでないってことは…大きいんだな……」
たくさんいる海の生物より、見ている観光客を気にするのは何だかオミっぽい。
「オミってシャチっぽいね…」
「何だ?俺って凶暴に見えてんの?」
「え……シャチって凶暴なの?」
「イルカと間違ってる……?」
「え……芸を覚えて披露するのは……」
「イルカだね」
「おう……」
私って物事知らないから……
真称(マホロ)って時々おもろい」
オミ、クスリと笑うと、騒いでいる栄たちのもとへいった。
「オミと何話してたの?」
「つね様」
「オミ、笑ってたけど?」
「……やめてマコ、恥ずかしいから……」
「「…?」」
2人は顔を見合わせ首をかしげた。


「クラゲってかわいいよね~」
「……どこがだよ」
尋乃はホヤ~っとした笑顔でクラゲを眺めている。
「このフワッととした感じとか、するするっとした感じとか…ほっこりする」

 まったく……全部が感覚なんだから…

フワッと、とか、するするっと、とか…。
尋乃らしい表現で、これが何となく分かってしまうから厄介だ。
「ハル、分かる?」
「……わかんない」
「分かんないか~」

分かるよ。

何故か、尋乃のことは何となく分かる。不器用なコミュニケーションでも、俺には手に取るように分かってしまう。
だから…
今、尋乃は迷ってるのかなって思っていた。何に対してとかどんなことをとか、具体的には分からないけど、何となく、困ってるのかな?って感じていた。こんなフワッとした感覚でツネたちにお願いをするのは、何だか申し訳なかったが、俺に出来ることってそのくらいしかなかった。
斜め後ろの方から栄たちがチンアナゴで騒いでいる声がする。
ポーっとクラゲを見ていた尋乃が、話しかけてくる。
「昼食の時さ…」
「昼食……?」
「和紗と千穂子が来たよ。一緒に食べた」
ああ…昼食の時、何だか気にしていたら、動きがおかしくなって、あの2人だけ班からあぶれていた。取りあえずあまり問題のない尋乃と真称の近くに行けばなんとかなると、声をかけたのだ。実際、問題なく昼食の時間は終わったようだ。
「……そか」
ちらりとハルを見て、くすっと笑うヒロノ。
「……やっぱハルが声かけたんだ」
「やっぱってなんだよ」
「そんな気がしたんだよね。ここのとこ和紗、美花菜ともめてるみたいだからさ」

やっぱもめてるのか……

「大丈夫だよ」
「何が」
「私はもめてない」
「なんだそりゃ…」
「分かんないことに口出ししない…」

 お……ろ……

驚いた……。尋乃が、冷静だ…。
クラゲから俺に視線を移した尋乃は、明らかに変なものを見たって顔をした。
「ハル…あんたなんて顔してんのよ」
ああ、俺の顔見て……って
「どーゆう意味だよ!」
「そんな驚いたような、信じられないって感じの顔」
「それは……!尋乃が……」
「私が、何よ」
「え、あ、……いや、だから、……まあ、何でもない」
「何それ。あ、あっちにちょうちんあんこうだ!あ、タツノオトシゴもいる!」
なにで迷ってんだよ。アシカとかイルカとかで迷えよ。けど…まあ、尋乃らしいけどさ。
俺は頭をかきながら、尋乃の後を追った。
何だか信じられないけど、尋乃はちょっと距離をおいて様子を見ている感じなのだろうか…。それなら、俺の心配のしすぎってことだ。これじゃあマコと変わらないじゃないか……。
思いも寄らないとこで比較されている誠斗(マコト)であった。
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