第4話

文字数 1,213文字

4。

私はあまり頭がよくない。
「どうして分からないの?」よくお母さんに言われる。学校でそれほど出来ないことを言われることはないが、きっと、勉強が出来ない方だろうと思っている。なので、算数とか国語とかの授業より、音楽の方がなんとなく好きだ。点数が出てくるようなことは少ないし、何よりみんなで歌うのは楽しかった。教室にじっと座らなくてもいいし、知らない曲を聞けたり、楽器に触れたりする。けれど…
次は音楽。移動教室なので、行かなくてはいけないが、行きにくい…。
「マホロ、早く行こう。星ノッチ、すぐ怒るからさ」
“星ノッチ”とは担任の星塚先生のこと。尋乃が声をかけてくれる。
「うん…」
「おまえリコーダーまだ来ねえの?」
マコが教室の戸口で教科書をひらひらさせながら言う。
「ああ、そっか。注文が後になったんだよねマホロ」
「うん…」
本当は2年生で頼むらしいのだけれど、私は丁度その時ぐらいに転校してきて、注文が出来ず、3年生になってから買うことになったのだけど…。
「別におまえが悪いわけじゃないだろ?」
マコがいう。
「そうだけど…」
「とにかく行こう。チャイムなっちゃうよ」
「うん」
尋乃の手を引かれて3人は廊下を走った。


「はい、じゃあ今日は“こいぬのマーチ”を練習しますよ。リコーダー出して」
みんなゴソゴソと準備し始める。歌だけで終わることはないか…。
「……準備できてない人は忘れたのですか? リコーダーない人立って」
わあ……6人もいるじゃん。
なんだかちょっとだけ安心感。ひとりじゃなかった。
「……真称さん、まだ買ってないの?」



まさかピンポイントで聞かれるとは思わず、ドキッとする。
「注文はしてると思います」
「…そんなに時間がかかるの?」
何がいいたいのかは分からないけれど、時間がかかるのかどうかは私にはわからない。
「それは、わかりません」
「お母さんに聞いておきなさい」
「はい」
「じゃあ、リコーダーある人は授業します」
その時、手をスッと上げた子がいた。
「センセー、俺はあるのに忘れたから怒られるのしかたないけどさ、マホロはマホロのせいじゃないじゃん」
「……先生は怒ってません」
「じゃあ、今のは何ですか。俺には怒られてるように見えました」
「確認したんですよ」
「そうなんだ。マホロだけ?俺たちはいいの?いいならいいけど」
音楽室が音楽が流れる以外でざわっとした。後ろに座っていた尋乃が身を乗り出してくる。
「ええ~、(サカエ)って結構言うのね」
私も“あなたが悪い”って怒られているように聞こえた。私だけがそう思っているのかもって思ったけど、違ってたんだ。
それを大人にも言えちゃうってすごい…。
「静かに!そうね、今日は時間がないのでみんなに聞かないのです。次の授業には持ってきなさいね」
「はーい」
栄は座った後、にっと笑った。
わざとだ……先生に“おかしい”っていったんだ。私は心がフワッと浮いたかと思った。
同じ年なのにお兄さんに見えた。
「サカエ」がインプットされた。



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