第10話

文字数 1,642文字

10。

朝、いつものように玄関を出て棟を出ると……
「おはよう」
「お、おはよう……」
爽やか笑顔のツネトモがいた。
なんだかいろいろと頭が回らないけれど、何故にここにツネトモが?
「すごい、時間に正確だ」
「え?」
「前にヒロノが言ってたんだよね。8時10分になったら家出るって。行こっか」
「う、うん……」
なんだか流されたけれど……何なんだ?
「どうしたの?ツネトモってこっち通らないよね?」
「そうだね、田んぼの向こう側だからね」
ですよね……。
「気になってさ」
「何が?」
「あんなにガッツリ後ろ向きにこけたのに、病院に行かないって言うから」
「え……それだけ?」
「それだけって……気になるでしょ」
「そうかな~」
「そうだよ」
そんなもんかな……。いまいちよく分からないが、賢い永朝が言うならそうなのかな。歩道橋を渡りながらふと思う。
「遠いのにありがとう」
「どういたしまして」
お礼を言われなれているのかな?とても答え方がきれいだ。
「あれ?ツネが一緒にいる……」
振り返るとマコがいた。
「おはよう、ダイジョブなん?」
「おはよう、うん、熱下がったから」
「そか。ツネはどしたん」
「心配だったから」
「え?」
「それだけだよ」
ほら、ここで微笑むんですよこの人……。
マコがすすっと寄ってくる。
「何がどうした?」
「私が聞きたい……」
不思議な組み合わせでの登校に3年生は振り返り、あからさまに「なんで?」って言う子までいた。
だから、なに!


教室に入るまでしっかり見届けられ、私は自分の席に着いた。
学校へ来ただけですが?何か? 
2組の教室の外で、こちらを見てる何人かの3年がいる。
「来たとたん賑やかだね~」
先に登校していたであろう尋乃が近づいてきた。
「ヒロノ~私が家を出る時間を、何故に、ツネトモに話したかな~」
「聞かれたから」
ヒロノってば、お茶目……
「てか、聞かれたとこで、まさか一緒に来るとは思わんでしょう?」
それはそう。
「家の前で待ってたよ」
「誰が」
「ツネトモが」
「ええー!!
尋乃の大声が教室に響く。思わず尋乃の腕を引っ張る。
「声が大きい」
「ごめ…でも、だって、ツネってそんな感じじゃないから…」
「そんな感じって?病院行かないのが気になったって言ってたんだけどさ……」
「はあ~……」
「何よ、やっぱり親がお医者様だと息子もそういう考え方になるのかな?」
「そういうって?」
「けが人心配する的な…」
「はあ~……」
「何よ、さっきから“はあ~”ばっかり言ってる」
「マホロ~」
「ん?」
「そのままでいてね」
「はあ?」

なんなのよ…。

朝の準備をしながら釈然としない。宿題を提出して連絡帳を書く。
「お、マホロ来てんじゃん」
後ろの席は栄だ。
「おはよう」
「おはよー。おまえ、ダイジョブなの?見たやつらがさ、あれはヤバイって言ってたぞ……」
ランドセルをおき、朝の支度を始めながら話す栄。
「そうなの?大丈夫だよ。ちょっと背中いたいけど」
「……強ぇ」
「何よ……」
「別に」
栄は手早く準備を済ませ、教室を出ようとしたが、ちょっと考えて止まった。
「……あのさ、坂下と髙橋だけど…」
再び話しかけられて、一瞬何事かと思ったが、サカエの視線がこっちに向いていたので、私も動きを止める。
 
えっと……この間の5年のことか…

「うん…」
「俺、家が近いんだ。6棟が俺、8棟があいつら」
「なら、知ってるんだ。2人のこと」
「髙橋は保育が一緒だったからよく知ってる。坂下は…転校生。確か……おまえよりちょっと早いぐらい、去年の4月に来たはず」
「そうなんだ…」
「まあ…もう何もないとは思うけどさ、髙橋はともかく、坂下って分かんないとこあるから、何かあったら言えよ」
「……言うとなんかあんの?」
「ないけどさ……でもひとりって嫌じゃね?」
…………勝手な想像だが、サカエもひとりのしんどさを知っている気がした。
「ありがと。でも、ないんでしょ」
「おう」
栄、ニカッと笑うと、教室を出た。

うーん、こうやって注目されたことはあまりないから…この空間は苦手だな…。
席に座ると、私は大きなため息をついた。

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