第12話

文字数 1,911文字

12。

高橋くんはジュースを飲みながら、尋乃(ヒロノ)と私はポテトを食べながら、ベンチに座った。
「こんなこと話たって、俺や坂下がしたことの言い訳にしかならないけど……」
口調が、以前と違う。これが本来の高橋くんの姿なのだろうか? 何て言うか…嘘がないと言うか、フワッとしてないと言うか…。
「あいつ妹がひとりいるんだけど、入院してるんだ」
「え、どっか悪いんですか?」
ヒロノが聞く。
「詳しくはわからないけど……でも、初めての入院じゃないっぽい。ここに引っ越してきたのは、その妹のためっていってた気がするし……。もともとはあんなに乱暴なやつじゃないんだ。だって、入院中の妹のために毎日病院へ行くようなやつなんだよ」

そう……なんだ……

いままでの坂下の言動では考えられない内容だった。
「越してきたばっかの時は、家が近いし、俺にも妹いるし、気持ち分かるなあって。やりたいことあっても我慢してるっていってたから偉いなって思ってた……。けど、だんだん、あいつがなに考えてるかよくわからなくなってきてさ」
「それって……?」
「俺、ちょっと前までバスケットしてたんだ。サカエと同じクラブで」
「え、そうなの?」
ヒロノの驚いた声。
「それ知って、あいつもバスケやりたいって。じゃあ、一緒にやろうって、そこまではよかったんだけど……」
言いよどむ高橋くんを見て、尋乃と視線がかち合う。
「なんか…あった?」
「あったっていうか……。あいつ、親にクラブ活動はダメだって言われたんだと思う」
「何で?」
「入会金とか、クラブ費とか保険代とか、あとバッシュとか……結構ちょこちょこいるんだ、お金が」

ああ……分かる……

心のおくがズキッとする気がした。やりたいことをしなさい、と大人は言うが、物事には最低限かかる費用がある。それを何とかするには、大人の協力がいる。うまくいくことばかりではない。
「坂下のところはお母さんが遅くまで働いてるっていってた。お父さんはいないって。病院のお金もいるし、たぶん、ダメだって言われたんだと思う……」
「そっか…」
「そんときぐらいから…あいつ、周りに当たり散らすようになって、俺がクラブいこうとしたら邪魔するようになって…でも、誘ってきっかけつくったの俺だし…。何だかぐちゃぐちゃしちゃってさ、頭ん中が。で、辞めたんだ…バスケ…」
高橋くんはジュースをひとくち飲むと、ふーっと息を吐いた。
「しんどかったりしたけど、やっぱり楽しかったんだよなぁ、バスケ」
なんだ…まだやりたいんだ…バスケット。
「坂下とケンカした原因ってそれですか?バスケやりたいって言ったら怒ったとか?」
「はは、違うよ。そんなことならもっとはっきりと絶交できたけど。……あいつ、言ったんだ。教室で、朝の支度してるとき、校庭行こうっていうから、ちょっと待ってくれたら行けるって返したら、何か急に不機嫌で、また色んなこと言い出して、で、“俺に遠慮してっからそんな顔になるんだ”って……」
手の中のペットボトルを両手でギュッと握る。
「俺、なに考えてたときなのかも覚えてないけど、あいつにそう言われてカッとなった。そんな顔って何だよって。遠慮ってなんだよって。で、言っちゃったんだよ、“じゃあ、もう話しかけてくんな”って。“うんざりだ”って。でも、一番は…ぐちゃぐちゃした俺のことが、うんざりしてる…」
でも、からあとはほとんど呟きだ。
私は、自分の手に持っていたポテトを高橋くんに向けた。
「食べます?おいしいですよ…」
「え…、あ…ありがと」
高橋くんは、何だ?と不可思議に思いながらポテトをひとつ取る。
「みんな、言わないだけで色々あるんです。きっと……」
わざわざ自分の隠したい部分の話を言ったりしない。言っちゃいけないって、思ってしまってる。知られて“かわいそう”何て思われたら最悪だ…。
「う、うん…」
「だからって、ヒロノにボール投げたこととか、カズイにしたこととか、許せませんけど…」
「わかってる…ごめん…」
「けど、いつまでも恨んでるって訳でもないんで」
「……え」
高橋くんの顔が上がる。
「みんな、色々あるんです。きっと…。だからってダメなもんはダメですけど…、それだけです」
「う、うん…」
「だから、もうこれでいざこざの話は終わりです。せっかくの夏祭りなんで、ね、ヒロノ」
「そうですよ、一緒にくじ引きします?」
「ヒロノー……」
「だって、くじ引きしたいんだってば!」
「ははは、いいよ。行こうか」
高橋くんの表情がもっと柔らかくなった。
きっとこの人は、もともと私たちとなんにも変わらない小学生で、意地悪なんかじゃない……。
「わっ、何で?!
突然聞いたことのある声。
「サカエ……」
「高兄、何でマホロたちといんの?」

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