第19話

文字数 2,387文字

「で、どしたの?……」
大水槽に感激したあと、トイレ休憩することになった。男女で設置場所が違ったため、移動を含めちょっとマコたちと別行動になった。さっきから変な視線を感じてたから、マコたちと離れるのは嫌だったけれど、仕方ない。
移動しようとしてすぐ、美花菜(ミハナ)が声をかけてきた。

変な視線の正体は美花菜か……

ちょっと納得したら、肩の力が抜けちゃったよ…もう……。
「ちょっと行ってくる。すぐ戻るから先にトイレ行ってて」
真称(マホロ)にはそういって、少し場所を変えた。大水槽前まで戻ってくる。きっとツネ様のことだろうから、どうせなら和紗(カズサ)のことも聞いてやろうと思った。そうなると、真称には聞かせちゃいけないって思うんだよね。ツネ様は少なくとも真称に特別な思いを抱いているだろうから。ツネ様にも美花菜にも、悪いなって気がする。
「聞きたいことあってさ」
周りを少し気にしながら美花菜が口を開く。
「うん。ミサンガのこと?」
「え、」
「え?違うの?」
「そ、そうだけど……何で?」
まあ、トラブルは知らないことになってるんだっけ。
「ツネ様がこないだから着けてたから。美花菜なら気にすると思って」
「そ、そうなのよ。今まで持ってなかったから。あれって誰かがあげたのかなって」

 ああ、誰かのプレゼントだと思ったのか

「違うって言ってたよ」
「そ、そっか」
ほっとした顔の美花菜。うーん、素直に言えばかわいいのにな…。
「あのさ、どうして私に聞いたの?」
「え?」
「ツネ様のミサンガだからさ、ツネに聞けばいいんじゃない?」
「……だって、恥ずかしいじゃん。いちいち気にしてて」
「うーん、でもいちいち気にしてるのって事実じゃない?聞こうが聞くまいが変わらないじゃん」
「……!」
「友だちに相談とかしないの?」
「え…そんなの言えないよ」
「なんで?友だちだったら一緒に悩んで、変だと思ったらダメだって言ってくれるよ?」
「……! 何よ……尋乃には分かんないよ」
「分かんないから言うんでしょ。何当たり前のこと言ってんのよ。美花菜、こそこそしてたら大事なもん、見失っちゃうよ」
美花菜は何も言わないでどっかに行った。残された私は、若干、「やっちゃった」と思った。




ふと気づいた。
あの紺色のリュックは見たことがある。あの校章は見たことがあると。たぶん、前に通っていた学校だ。だからって、それ以上の感情はなかった。
ここに来る前の思い出って、思い出せるものがあまりなかった。友だちと言える人間関係も築けてなかったし。短い期間しかいなかったこともあって、全員購入のリュックも持ってなかった。
と、いろいろ形式的なこともなんだかふわふわしたまま、次へ越したから、覚えていることはないも同然なんだよね……。
でも、何故か

はそうではなかったらしい。
「久しぶりじゃん、真称(マホロ)
「…………」

 なんで私って分かったのだろう?

大水槽からペンギンのブースへ行くときに、トイレに行ってから行くことになった。マコたち男子もそのタイミングでトイレ休憩をとった。女子トイレと男子トイレは場所が違っていて、大水槽とクラゲたちがいたブースの間に男子トイレ。女子トイレは大水槽から少し先、ペンギンより手前って感じだった。一旦分かれて、ペンギンのとこで集合しようということになった。。
マコたちと離れてすぐに、美花菜が尋乃に声をかけてきた。尋乃は「ちょっと行ってくる。すぐ戻るから先にトイレ行ってて」と言った。私は、まさかそんなに時間がかかるとは思わず、トイレが混んでいたこともあって、時間短縮で先にトイレを済ませた。すぐ戻るだろうと思っていたが、まだ尋乃は戻ってこない。勝手に移動しちゃったら分かんなくなるから、ここにいようと、トイレ入り口から少し離れたとこで待っていた。しばらくして、誰かに当たって、手に持っていたハンカチが落ちた。拾おうとしたら、そのハンカチが踏まれた。顔を上げたら紺色のリュックを持った男の子がそこにいた。そうして、あの思考が出てきたのだ。「紺色のリュック、見たことがある」と。
「驚いてんの?」

……うーん。というか、誰…?

「足、どけてくれる?」
「え…」
「踏んでるの。どけて」
「あ…」
相手の重心が少し後ろずれたのか、ハンカチを引っ張ったら取れた。
私は立ち上がると、ふうっとため息を着く。私ってどうしてこんなに絡まれやすいのかな…。素行が悪そうに見えるのかな?
立ち上がり、相手の顔を見る。向こうは私を覚えている風だけど……。
「お前、覚えてないの?」
「……その学校にいたのって確か数ヵ月だったと思うの。正直、あんまり覚えてない。ごめん」
「そうなのか…」

 確か2年生の頃だから、覚えてるわけない。

もうすぐ尋乃がくるだろう。
「もうさ、学校違うし、今日はたまたま会っただけでしょ?私、あなたの名前も知らないし…」
言い終わる前に突然、腕を捕まれてちょっとぎょっとする。
周囲はいろんな人がいる公共の場で、少なくとも学校の行事の最中である。
「何?」
「あ……ごめん」
急いで離した手、その行動に、既視感が……。私の頭の中に一瞬、映像が浮かぶ。前も腕を捕まれた…?

『お前ムカつく』

言われたであろう言葉がリフレインする。
「…遊陸(ユウリ)………?」
思わず呟いてしまった。
「……違う、オレは光陸(ヒカリ)
あ……双子、だった気がする。双子がいた気がする。中途で転校してきたのが物珍しかったのか、よく絡んできたのがいた気がする。
わぁ、ちょっと思い出した。
2年生の頃からいうと身長も伸びて、髪型も変わってるし、私は分からなかった。
「まさか修学旅行で一緒になるとはね」
私もビックリです。記憶力に脱帽です…。
「ユウリが、すぐ気付いてた」
「……そう」
「気をつけてね」
そういうと、光陸はその場を離れた。

気をつけてね……?

どういうことなのだろう?と思ったが、とにかく急いでペンギンブースへと向かった。
その様子を和紗(カズサ)はずっと見ていた。
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